ふわ
□北風と意地悪
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土方くんはいつも(毎週金曜日)
武道場から早足で、
身を縮めて待つあたしの所に来る。
そしてちょっと唇の片端を下げる。
「…あのよぉ、」
「んー?」
「別に…中で待ってくれてても…、」
確か最初に言われた時は
「先に帰っても良い」だったっけ。
次が「教室で」。
それで、今度は「校舎内」まで譲歩して、なんとかあたしを冷気から守ろうとしてる。
「いーんだ」
あたしは毎週おんなじ。
「その分土方くんがあっためてくれるから」
そう言って、刺す様な外気に晒し続けた真っ赤な左手を差し出す。
「…」
彼は顔を歪めながら、蒸気した手で、まるでガラスを扱うみたいにあたしの手のひらを包んだ。
…もこもこ手袋にふわふわ耳当て。
ましてやカイロだって、ドット柄のリュックに押し込められているのをあたしもこの人も知っている。
どんなあたしのワガママも、全部「俺のせい」に変える彼の特殊な優しさの形が大好きで、
大嫌いで、
だから毎週わざと
コンクリートに背中を預け
冷たい風に肌を晒す。