宝物(ブック)

□そこにある風景
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ふと記憶が蘇る。

あれはたしか、夕刻間近。
書の稽古を終えた帰りの事だった。





「惇兄、なんか聞こえなかった?」

「別に」





書の道具を抱えるようにして周りをキョロキョロと見渡す淵。

大通りならまだしも、いつも近道にと使っているここは道の脇が墓地である。
そして、柳の木・小川・寂れた寺……

何とも風情があっていいものだ。
と俺は思っていたが、淵はそうでもないようだった。





「淵、何も聞こえないぜ」

「絶対聞こえたって〜」





怖がりのくせに、それを確かめようとする辺りが可愛らしい。
いっつも自分の後ろをくっ付いて歩く、少し年下の従弟。





「ほらっ!聞こえた」





確かに言われてみれば、何か物音がしたような気もする。
だが、妖怪や幽霊の類など、斬れるわけでもなければ退治出来るわけでもない。
放っておくのが一番だ、と思っているのは、どうやら俺だけのようだった。





「よしっ!俺は確かめに行くぞ、惇!」





さっきまで眠そうに歩いていた男が意気揚々と声を上げた。
実は、俺と淵以外にツレがもう一人いたのだ。

首を突っ込むと面倒な男、曹操である。





(だから早く帰りたかったんだけど……)





賛同した曹操と淵、それと無理矢理参加の俺。
墓地の中へと足を踏み入れたのだった。
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