宝物(ブック)
□そこにある風景
2ページ/6ページ
ふと記憶が蘇る。
あれはたしか、夕刻間近。
書の稽古を終えた帰りの事だった。
「惇兄、なんか聞こえなかった?」
「別に」
書の道具を抱えるようにして周りをキョロキョロと見渡す淵。
大通りならまだしも、いつも近道にと使っているここは道の脇が墓地である。
そして、柳の木・小川・寂れた寺……
何とも風情があっていいものだ。
と俺は思っていたが、淵はそうでもないようだった。
「淵、何も聞こえないぜ」
「絶対聞こえたって〜」
怖がりのくせに、それを確かめようとする辺りが可愛らしい。
いっつも自分の後ろをくっ付いて歩く、少し年下の従弟。
「ほらっ!聞こえた」
確かに言われてみれば、何か物音がしたような気もする。
だが、妖怪や幽霊の類など、斬れるわけでもなければ退治出来るわけでもない。
放っておくのが一番だ、と思っているのは、どうやら俺だけのようだった。
「よしっ!俺は確かめに行くぞ、惇!」
さっきまで眠そうに歩いていた男が意気揚々と声を上げた。
実は、俺と淵以外にツレがもう一人いたのだ。
首を突っ込むと面倒な男、曹操である。
(だから早く帰りたかったんだけど……)
賛同した曹操と淵、それと無理矢理参加の俺。
墓地の中へと足を踏み入れたのだった。