おとなりさん。
□「俺はしょっぱい方が好みナリ」
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第二話*「俺はしょっぱい方が好みナリ」
ゴミ捨てのために早起きしたものの。
部屋に戻ると睡魔に襲われ、起きたのは12時過ぎであった。
よっぽど疲れていたらしい。
こういう時に「お母さん、お昼はー? 」と言えば、お昼御飯が出てくる実家が懐かしくなる。
胸下まである髪の毛を軽くまとめ、キッチンに立った瞬間、インターホンが鳴った。
「はい? 」
備え付けの受話器を取る。
防犯に役立つ、玄関先に立つ人の顔が開ける前に分かるすぐれものだ。
その画面には、先ほどの男――仁王雅治が映っていた。
「どうしたの、におー」
「仁王じゃ」
「わかったから」
「とりあえず入れて」
訳が分からん。
それでも扉を入れてしまう私に、先ほどの防犯グッズは何も役に立たないだろう。
「邪魔するナリ」
「どうしたの、におー」
先ほどと同じ質問をぶつけると、彼は悪びれもせず言った。
「暇じゃった。腹も減った。だから来た」
その時、犯罪者が動機を尋ねられた時の台詞を思い出した。
『ムカついた。目立ちたかった。だから殺した』
そのような類のものだ。
仁王雅治と話していると理由というものの意義が分からなくなる。
私は盛大にため息をついて、
「今から作るとこだから座ってて」
と茶色のクッションを指差した。
「甘い。甘すぎる」
フライパンにとき卵を入れ、くるくると巻いていく。
「甘いんか? 俺はしょっぱい方が好みナリ」
背後からした声に驚いて振り返ると、彼が出来上がった分(私のだ)の卵焼きを指でつまんだ。
「こらー! 待っててって言ったでしょ」
もう1つ摘まもうとしていた手を叩くと彼は少ししょげたふりをする。
「あんたの好みに合わせる必要もないし、それに甘いのは味じゃない! 」
「そうカッカしなさんな」
「誰のせいよ! 」
渾身の力を込めて睨みつけるが、それでも全く気にしてない様子だ。
呆れた。何でこいつのために貴重な卵を使っているのだろう。
ケチではない。本当に貴重なのだ。
面倒だからといってついつい卵料理で腹を膨らます私の冷蔵庫には、もう卵はない。
今晩と明日の朝、そしてお弁当は違うものを作らなければいけない。
更に明日は6限まである。そのあとサークルもある。スーパーが閉まる時間までには帰られない。
せっかくの休みだから、買い物など行きたくないのに。
「味じゃないなら、なんなんじゃ」
仁王雅治が珍しく不思議そうな顔で疑問を浮かべる。
あんたにだよ。
流石にそうは言えず、何でもないと突き放せば、仁王雅治は喉を鳴らして笑った。
何故かこの男はすべて見抜いている気がする。
あまり良い気がしない。悔しいのだ。
「笑うならあげない」
そう言うと、彼は大人しくテーブルに戻っていった。