Jude Empty wish

□出会いは綺麗な翡翠色
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Jade of Empty wish


第一章:出会い
 1−綺麗な、翡翠色。






翡翠色の美しさを知ったのは、中3の冬。

風が冷たくて、今にも雪が降りそうな、そんなときに、


俺は翡翠色に似た何かに出会った。



一生の運を使い果たす程の幸せな偶然で。





―4か月前



「白石、一緒に帰ろやあ」

「あー、悪い、用あんねん」

クラスメイトの忍足謙也からの誘いを断って、夏以来軽くなった鞄を手に取る。


本間は用があったわけやない。

嘘は心苦しいねんけど、なんとなくそんな気分になれんかったんや。



3月なって、テストが終わって、卒業式の練習が始まって。
なんか時間だけあっという間で、四天宝寺が公立なことを恨んだ。


なんでかというと、やっぱり皆でテニスがしたかったんやと思う。


俺の第一志望は四天宝寺高で、謙也も、小春も、ユウジもそうや。

でも千歳はやりたいこと見つけたから違う高校行くらしくて、

笑って背中を押したものの、「高校行っても皆とテニス出来る」
って言う当たり前が、なくなったんも事実やった。


銀さんも、小石川も、千歳も。

折角自分の道を歩こうとしてる仲間がおるのに、素直に応援できひん自分に苛々が募る。



ちょっと、1人になりたかった。

勉強でもテニスでも毒草でもなく、周りに誰もいない所に、
ほんの少しだけでいいから行きたかった。




結構な距離を歩いただろう、
暫くすると車の音も聞こえんくなって、砂の感触に足をとめた。



ああ、こんなとこまで来てしもたんや――


目の前に広がる海に、少し苦笑する。


丁度ええわ。

冬の海。
こないに誰も来ん所ってないやろ。


鞄を置こうとしたとき、何かが目に入った。



人…?


強い風に目を凝らすと、そこには確かに人が居って、
もしかしたら俺と同じ考えやったんかな、なんて思う。


少しだけ足を進めると、よう見たら、そない年も離れてなさそうな女の子。




さらに砂浜を歩くと、自分の目を疑うことになった。





それくらい端正な顔立ちに、茶色のロングヘア。
2つ上くらいやろか、それくらいの人。




何ていうんやろか。
美人やねんけど、なんかそれだけじゃなくて。



見たらあかんような、触れたらあかんような、
それでいて惹きつけるような
なんともいえん雰囲気を持っている。



その人は海辺に座っていて、風になびく髪も気にしてんかった。



何となく目が離せなくて、じっと見ていると、彼女は右手で海水を掬っていた。




「……っ…」





嘘、やろ?



手のひらに乗った海水に、水滴が落ちる。



声にならない泣き声で、
表情1つ変えず、



ただ静かに

彼女は泣いていた――。






そして、その瞬間、目があった。




きっと、それがはじまり。



Jade Jadge?
(彼女の涙と海の色を混ぜたら、きっと翡翠色になるんやろう。)
(あまりにも綺麗に泣くから、目を逸らすなんて正しい判断、出来んかったんや)

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