*あなたからキスして*
≪忍×弥生≫
「ごめん、遅くなっちゃって!」
教室に駆け込んできたのは息を切らせた忍だった。
委員会議があるから遅くなるとは聞いていたけれど、既に下校時刻はとっくに過ぎている時間だ。
「待った…よね、当然」
「うん。すっごく待った!」
「ごめん」
素直に頭を下げる忍を見つめる弥生は頬を膨らませ、少しばかり不機嫌そうだ。
それも当然だろう。
忍はどうすれば弥生の機嫌を戻せるだろうと必死に考えた。
「お詫びに何でも言うこと聞くから」
咄嗟に出たのがこんな言葉だった。
弥生がきょとんとした顔で忍を見つめ、そしてにっこりと笑う。
その笑顔に薄ら寒い何かを感じながらも、忍は言ってしまった手前、弥生の答えを待つしかなかった。
「何でも聞いてくれるんだよね?」
「で、できる範囲で、なら…」
「だったら」
弥生はたじろぐ忍のネクタイを捕まえ、耳元で小さく囁いた。
「忍からキスして」
驚いて見返した弥生の頬が赤いのは気のせいだろうか。
薄暗い教室の中に2人きり。
またとないチャンスだ。
「じ、じゃあ…目、閉じてもらえる?」
そっと弥生が目を閉じた。
忍はゴクリと生唾を飲み込み、少しずつ顔を近付ける。
キスをしたことがないわけではないが、大抵は弥生がリードするような形でされることが多かった。
それを不甲斐なく思っていたけれど、忍はこのチャンスを逃さないためになけなしの勇気を振り絞った。
「忍…好き…」
唇が触れ合う寸前そう言った弥生に、忍はありったけの愛情を込めたキスをした。
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お題提供元:確かに恋だった