恋わずらい
□そして、たまらなく愛しい
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でも、今目の前にいる彼は、あの時と違ってにこやかに笑いながら、澄み切った瞳で私を見つめていた。
“そして”という接続詞が好きで、よく使っている男。
普通の高校生は、そんな固い接続詞を会話の中で使わないんだよ〜。
とか馬鹿な事を考えながら、最後になるかもしれない彼の顔をじっと見つめた。
私の視線に気づいたのかふわっと笑ってくれる。
その律儀で忠実なところが好きだ。
あの時、彼が高校卒業まで…と言ったから、今日ですっぱり綺麗に終わりなんだろう。
1年ほど前はあんなに私の事を好きだと示してくれていたけど、最近はそんな事もなくなって義務のように一緒にいてくれた。
彼からしたらここで恩返しがやっと終了で、高校卒業と同時に終わる事が出来て、もはやせいせいしているのかもしれなかった。
律儀で、人にしてもらった事はちゃんと返さないといけないと、その信念の柱を心の真ん中にずっしり立てているような人だった。
私はこの人ほど心が綺麗で、優しい人間を見たことがなかったから。
あっさり別れを告げられたこの瞬間、自分の中の彼の綺麗なイメージがほんの少しだけ欠けた気がした。
それでも、それを除いても余るくらいには十分優しくしてもらったから、一生の別れを告げられることに文句も何もない。
じんじんと音を立てて傷む胸は、笑顔と一緒に消えたような気がする。