てにす

□5センチ
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好きだ。


そう告げられたときは信じられなくて、自分の都合の良い夢だと思った。

目の前にいるブン太はやけに真剣で、遠くで聞こえる始業を知らせる鐘がやたら現実味を帯びていた。



















「――おい、なまえ!」

「…え、何?」

「何じゃねぇだろぃ。何ぼーっとしてんだ」

「あ、ごめんごめん」

「で、何考えてたんだよ?」

「んー、告白された日のこと」




















「えーと」

「なまえは俺のことどう思ってんの?」

「どうって…」



そりゃ好きだけど…



「好きか嫌いか。簡単だろぃ」

「好き…です」




ほら、と促され答えれば、にっこり笑って知ってたぜ、なんて言う。

これには驚きを隠せなかった。




「ちょ、え、どういうこと?」

「お前のことなんか全部お見通し、ってこと」




悪戯に笑うブン太に、不覚にもドキッとした。




















「お見通しって言われたときはびっくりしたなぁ」




そう言えばブン太は、あの時のなまえの顔は一生忘れられない、とおかしそうに笑う。




「うわ、酷っ」

「最高に間抜けだったぜぃ」




思い出してツボに入ってしまったらしい。お腹を抱えて笑っている。




「ブン太の馬鹿」

「はは、拗ねるなって」




私の機嫌を損ねたとき、ブン太は必ず頭を撫でる。私がそれに弱いことを知ってやっているから質が悪い。




「ブン太」

「ん?」




ジャケットの裾を掴みブン太を見上げる。

この2年で大分身長が伸びたため、前より高い位置に頭がある。


じっと見つめれば私の意思を理解したようにああ、と小さく笑った。




「仲直りのキス、な」

「ん、」




ゆっくりと互いの顔が離れていく。
どうもこの瞬間は恥ずかしくて俯いてしまう。




「いいこ、いいこ」




子供扱いされるのはちょっとだけ癪に障るけど、乗せられた手の温もりが心地よくて、ブン太になら子供扱いされてもいいかな、なんて思ってしまう。




「さて、帰るか」

「あ、久しぶりにクレープ屋さん行こうよ」

「そうだな」








曖昧な距離の続きというか2年後の話
回想でブン太がなまえちゃんの気持ちを知っていたのは友達伝に聞いた、とかそんな感じで

ブン太誕生日おめでと!


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