てにす
□萌えについて
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「柳さん」
「何だ」
「ネクタイっていいですよね」
「……」
暑い暑いと床に寝転がっているなまえがうへへー、という奇声をあげる。
そのまま椅子に掛ける俺の膝に這い上がって来そうだったから一蹴した。
こんなだらしない顔をしてるときは大方碌でもないことを考えてるときだ。
「ネクタイ萌えー」
「……」
「ちょ、何ですか!その変なモノを見るような目は!」
「こっちへ寄るな。変態が移る」
酷い!それが可愛い彼女に対する言葉ですか!等とありきたりの台詞を並べると、床に座り込みネクタイについて語りだした。
こんなとき俺は自分の糸目に大変感謝することとなる。嫌々ながら話を聞くわけだが(半強制的)、ぺらぺらと意味の解らない変態語を話されては疲れてしまうし、何よりも退屈だ。そんなときに眠ってしまっても相手に分からないというのは大変便利だ。
そして今日も例に漏れず眠っていたわけだが……
「―めていい?」
「……何がだ」
「だから、ネクタイ弛めていい?」
うとうとしている間に、少女は柳のネクタイに手を掛けていた。
その様子に柳は内心狼狽するが、顔には出さぬよう、いつも通り冷静に切り返す。
「…もう弛められているようだが」
「へへ、柳さん抵抗しないから」
へらりと笑うと更にワイシャツのボタンまで外し始めた。
寝ていたため抵抗なんて頭にある筈もなく。
「適度に開かれたシャツに、弛んだネクタイ…そこから覗く鎖骨って堪らないですよねー」
そこで一つ引っ掛かる。
「ということはなまえが萌えとやらを感じるのはネクタイではなく鎖骨だろう」
「えー、そうなの?」
そうなの?って自分のことだろう。
と、柳は微かに顔をしかめた。
「柳さん眉間にシワ寄せると綺麗な顔が台無しですよ」
「お前が意味の解らないことを言うからだ」
「えー、でもネクタイ萌えなんですよ?」
若干話が噛み合ってないが、それを気にしてないのか気づかないのか。恐らく後者であろうが、再びネクタイ萌えとやらを語りだした。
「ほら、よく男の子がネクタイほどいて手を縛ったりするじゃないですか。目隠しなんかにしたり。あ、私は縛りに限っては王道の縄でも手錠でも何かのコードでも構いません。SMっぽくて――ってこれ萌えって言うのかな。たぎるって言うほうが、」
「なるほど」
「……?」
柳の「なるほど」という発言の意味が解らないのか、なまえは首を傾げた。
しゅるり、と自分のネクタイと私のネクタイをとくと柳さんは笑う。
「あの、」
その厭らしい笑み、凄く嫌な予感しかしないんですけど…
「なまえ、こっちへ来い」
開眼なさる柳様に背かうことなど出来る筈もなく、私は素直に従った。
柳は腕を引っ張ると、体をくるりと反転させ、後ろで腕を一つに纏めて縛り上げた。
「待った!や、やや柳さん!ちょっと待ちましょう!」
「聞こえないな」
「ぎゃ、やだ!ち、ちょっとなに目隠しなんかしてるんですか!」
バタバタ暴れるが、ローテーブルの角に脛をぶつけた為かなまえは大人しくなった。
更に少しばかり肩を押せばいとも容易く床へと倒れた。
「い、った…」
「自業自得だ」
「今のは柳さんが押して…!」
「痛いのは嫌いではないだろう」
「まぁ、そうですけど…って違う!元はといえば柳さんが……っんん」
五月蝿いのは感心しないといった表情で手のひらを口へ押さえつけた。
なまえといえば、騒いでいたところを口を塞がれて息が苦しいのか、肩を上下させ頬を紅潮させている。そんななまえを見、柳は納得したような声で恐ろしい言葉を紡いだ。
「なるほど、これが萌えか」
(ち、違います!)
(柳さん色々間違えてます!)
BLにおいての萌えを語るヒロインと萌えの感覚が掴めてない柳。笑
変態は書いてて楽しいですね。
鎖骨やネクタイに関しては私の趣ry