てにす

□救世主
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ああ、苦しい。
息が、できない。


この状況であるが、ふと思った。
水槽の中でエラ呼吸が出来ない人間が息をしたらこんな感じなのだろうか。
吸っても吸っても苦しいばかりで、空気ではなく水が肺を満たすのか。

もし、私が本当に水槽に放り込まれたらパニックになってもがいてもがいて。
それでもって余計に水を吸い込んで、息の出来ない苦しさの中で死んでいくんだろう。

溺死、は嫌だな。


殺されかけているのに冷静に考え事なんて随分暢気なものだと内心苦笑した。

それが顔に出てしまったのか、相手の顔が歪み、込められる力にひゅう、と喉が鳴った。

ああ、そうだ。
この狭窄感。
溺死なんかじゃ、ない。

強制的に呼吸をシャットダウンさせられて息を吸うことが出来ずに死ぬんだ。
でも、どっちみち酸素が足りずに死ぬんだから大差はないのかもしれない。



「なまえ!」



どこか遠くで誰かが私を呼ぶ。



「なまえ!」



この声は誰だったかな。
頭がぼーっとして思い出せない。



「や、なぎ…」



無意識のうちに呼んだ名前。
そうだ、これは柳の声。
耳に馴染む大好きな人の声。


ねぇ、どうしてそんな悲しい顔をしているの?


霞む視界の中で泣いているように見える柳に手を伸ばすが、それは触れることなく地へ叩きつけられる。

愛しいその人に名を呼ばれながら私の意識はそこで途絶えた。





(ごめんなさい)
(もし、もう一度目が覚めたならばそう伝えよう)













しばらく前に書いたものが出てきたので。
解りづらかったらごめんなさい。
解釈は人それぞれです。


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