てにす
□屋上、ふたりぼっち
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「何してるの?」
寝転がり空に手を伸ばしていると声をかけられた。
入り口へと目を向ければ笑顔でこっちに近づいて来るのは同じクラスの幸村。
「んー雲を掴んでるの」
「へぇ、掴めそう?」
「…掴めない、かな」
隣に来て腰を下ろすと私同様に空に手を伸ばす。
「…雲って、掴めないよね。近くにあるようで、物凄く遠い。まるで…、」
「ん?」
言葉を区切り、なかなか話し出さない私に幸村は首を傾げた様子で「まるで?」と続きを催促する。
「やっぱ何でもない。でもさ、だからこそ手を伸ばすのかな」
「どうだろうね」
ふふ、と笑うと幸村は目を瞑った。
私も真似する。
なんだか風が気持ち良い。
少し湿気を含んだそれはそよそよと前髪を揺らす。
遠くから聴こえる音楽は子守唄のようで、ゆったりとしたメロディーは眠気を誘う。
「なまえ、」
「…ん、何?」
「掴めなくもないと思うよ、雲」
「そう、かな」
すっと腕が下ろされる気配がした。
「幸村は掴めた?」
「そうだね。雲は俺のこと掴むの、諦めてるみたいだけど」
「は…?」
言葉の意味を理解しかねる。
私の頭で理解するのには、もう少し時間が掛かりそうだ。
「何が言いたいかわかるよね?」
にこにこしている幸村に冷静を装い「何のこと?」と、返事をしてみるが、体は言うことを聞いてくれないらしい。
触れている肩が、熱いことに君は気づいているのだろうか。