ほか

□とけるように
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「悠太」


読書する彼に体を任せ、首に手を回した。肩に顔を押し付けると悠太の匂いが鼻を掠める。
一旦読書を止め「ん、なに?」と返事をしてくれる。そんな小さなことも幸せで仕方ない。


「悠太の匂いって落ち着くなぁ」
「なまえどうしたの?」
「んー…」


ずい、と後ろから悠太の読んでいる本を覗き込む。


「…何読んでるの?」
「はい、そこ。話を逸らさない」
「逸らしてないよ」
「うそ」
「本当だって」


ぐい、と腕を引かれ悠太の足の上へ転がった。
視線が交わり逸らすことが出来ない。


「嘘はつかない約束じゃなかった?」
「…はは、敵わないなぁ」




「恐いよ、悠太」
「どうして?」
「…幸せ過ぎて、恐くなる」


そっと目を閉じる。
今の私は悠太なしでは生きられない。
今が幸せ過ぎて、いつかこの幸せが壊れてしまうのでは、悠太がいなくなってしまったら、と考えるとどうしようもなく不安になる。

私の思考を読んだかのように悠太がそっと口を開いた。


「これから先の事なんて誰にもわからないよ。もちろん俺にもなまえにもね」
「うん…」
「でも俺はずっとなまえと一緒にいたいと思ってます」


だから心配しないで、ね。
その言葉は私の心にスッと染み込んで不安をかき消してくれる。


「悠太、」
「うん?」
「ありがとう」
「どういたしまして」


お腹に抱き着くとポンポンと頭を撫でてくれた。

悠太の言葉一つで今が幸せならそれでいいかも、と思えたりする。
悠太には一生敵わないんだろうなぁ…





とけるように


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