短文部屋

□雨天相合
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それは、冬の終わりのある日の出来事。




「…静かだなぁ」


窓の外をぼんやりと眺めながらこう呟いたのは、クラスメートからダメツナと呼ばれバカにされる沢田 綱吉少年だった。


何をやっても失敗し、冴えないとされているこの少年は、ついこの前まで友達らしい友達がいなかった。


しかし、このところは彼の右腕を名乗る獄寺 隼人やクラスの人気者である山本 武やボクシング部主将笹川 了平などが周りに集まってきてなんともにぎやかな日々を送っていた。


にも関わらず、何故今日に限ってこんなに静かなのか。


それは、今日が普通の生徒ならば学校に来る必要のない休日だからだ。


それに、獄寺はダイナマイトを仕入れにイタリアへ、山本は野球の遠征へ行っており、彼に近しい者は周りに誰もいなかった。


目の前の机の上には補習教材が、新品と同じ状態で乗っていた。




「まったくこんな問題分かる訳がないっての」


早々に考えるのを放棄し、かといって補習をサボると後で、怖い家庭教師からどんな目に合わされるか分かったものではないのでサボるにサボれず、かれこれ数時間彼はこの状態を続けていた。






「…帰ろう」
 

時計の針は、もう夕方と言える時間をさしており、さっきまで遠くで聞こえていたはずの部活動の声もいつのまにか聞こえなくなっていた。


そのことに気付いた綱吉は、ようやく帰る決意をした。


補習に呼んだというのに、教材だけ渡して生徒を放置した先生が悪いんだ、俺は悪くないぞと思いながら、さっさと帰る用意をした。







「うわ、最悪…」


綱吉が靴を履き、校舎を出た瞬間、待ち構えていたかのようなタイミングでポツポツと、雨が降り出した。


自分の陰鬱な気持ちを表すような暗雲が垂れ込んでいるなと思ってはいたけれども、まさかこのタイミングで降るとは思っていなかった彼は、もちろん傘を持っていなかった。


来たくもない補習に呼ばれ、放置され、挙句の果てには雨に濡れる。
 






最悪―。


そう思いながらも、これ以上嫌な思いはしたくないということで、一歩踏み出すと確実に濡れるのでその場から動けずにいた。



「―雨なんて嫌いだ」
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