遙か3SS
□煌めく玉
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もっと早くに出会えていたのなら・・・。
この想いの芽を枯らせずとも良かったのだろうか・・・。
そう・・・あの強く煌めくあの瞳に・・・・・・。
「龍神の神子・・・か・・・・・・」
初夏の静かな夜。
平泉では、初夏といえども夜は冷える。
そのかすかな寒さに、あの凍てつく真白な風景の中で見た、一対の煌めきを思い出し、一人ごちた。
今はすでにこの地にはいない存在。
心に残った想いの芽は、未だ彼の娘を求めている。
この芽を育てるのは簡単なこと。
思うが侭に、突き進むだけ・・・・・・。
だが、育ててはいけない。
彼の娘は、自らの思うが侭に突き進み、雪のきらめきに似た髪を持つ者を選んだのだから。
チクリ・・・・・・と、今はまだ小さく痛む胸。
彼の娘が選んだ者は、娘のことを『十六夜の君』と呼んでいたが・・・・・・。
庭に出て、暗い空を仰ぐ。
空には、満月が煌々と浮かんでいた。
その煌めきが、彼の娘に似ていた。
静けさの中に、力強く優しき光を持つ満月。