Conan

□君との距離は既に遠く
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ちらりと光った何かを、俺は見逃さなかった。一瞬にしてそれが銃だと判断した俺は、怪盗を庇うべく身を投じた。赤いレーザーポイントは真っ直ぐに怪盗へと向かっていたのだから。






当然の如くサイレンサーの付いた銃は、俺の予想通り怪盗の急所を狙ったのか、俺だけの躯を突き抜けていった。






予想に反して、怪盗の涙は温かかった。冷たい普段の態度とは駆け離れたそれに驚いた。冷たい涙など、ないのだけれど。






「何、で、かばった…!」






知るか。躯が勝手に動いたんだよ。






「瞳ェ開けろよ、馬鹿…!」





馬鹿とは酷いだろう。






俺だって出来る限りのことはした。その結果がこれな訳だから、後悔なんて大したものはしていない。けれど簡単な軽口でさえ喋れない己に微かな苛立ちを憶えたのもまた、事実だ。






生死の距離が、もどかしい。






その間にも俺の躯は、俺の意思に反して急速に冷えてゆく。それでも思考は酷く冴えていて、自分の置かれている状況を冷静に見下していた。






俺は、おそらく、死ぬ。






その事実だけはほぼ断定出来るものだった。怪盗が叫ぶが、その声ですら既に遠い。






「おいっ!名探偵…!頼むから手ェ握り返せよ…!」






握り返す力も無いんだよ。察しろ、バーロ。






「……か、…い……」






「名探偵!?おいっ!しっかりしやがれ…!」






耳元で叫ぶな。折角人がありったけの力で喋ったというのに。折角、その通り名を呼んでやろうと思ったのに。






喋るというのはとても労力のいるもので、「怪盗」という簡単な単語でさえ紡げない。息は上がり、口を開くのも億劫だ。俺の死亡推定時刻は何時だろうか。怪盗は無事に飛んで帰れるだろうか。未来への推測は留まることを知らず、淡い希望を抱かせる。






出来るなら、もう少しオメーと………。






怪盗の叫びも虚しく、世紀の名探偵は静かに意識を閉ざした。




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