NARUTO

□君は何も知らない
1ページ/1ページ






お前は何も知らない。俺の思いなど。ましてや俺の生きる意味など。人任せに託された願いなど。






「…ね、何考えてんの」






カカシは尋ねた。一人でいるときは例外無く、必ず。別にお前には関わりないだろうと言えば、痛々し気にただ、…そう、とだけ答え、そのまま隣に座り込む。沈黙は心地よいと馬鹿な考えを持っていた己が馬鹿らしい。沈黙は重たく、何より思考を遮られる。たった一人、自分の領域に入れただけで注意が逸れる弱い精神。恐怖すら感じる絶対的な沈黙。口を開くことすら躊躇われる威圧感。爽やかに揺れる白銀の髪の一本ですら恐れの対象だった。






「…お前、何で暗部会議出なかった?火影様が直接お前を呼んだだろう」






暗部会議は暗部に秩序が出来てから月に一度行われる、定期報告も含めた対策協議会だ。暗部を細かく役職ごとに分け、各々の隊の隊長が集まる。カカシを筆頭に枝の様に分かれる暗部で、俺はカカシの次に権力を持ち、単独での行動を許された副長だ。暗部会議は参加を義務付けられ無断での欠席は許されない。






「…長引いたんだよ、任務が。伝書、送ったろ」






昨夜は満月だった。丸い丸い月を見て発狂しかけたのを覚えている。別に任務なんて楽だった。追い忍としての抹殺任務だったのだから。こうして、満月の夜は九尾が俺の自我を犯し外に出ようと暴れ出す。チャクラが俺の外に漏れ出せば周りに迷惑をかけてしまう。下手すれば死にもするだろう。これ以上、俺の所為で傷付く人間を見たくはない。出来るかぎりで。自我を保つことのほうが余程惨たらしいことだった。誰も知らないでいいのだ、こんなこと。誰も、誰も、誰も。






「…そう。言う気が無いのなら俺も聞くだけ無駄だぁね。」






無駄だよ。言ってやりたかったがやめた。何も知らないくせに、何でも知ったような目で。アイツが、俺を、見るから。俺のことなんて、何一つとして知らないくせに。俺が九尾をコントロール出来ることなんて。満月の晩だけ暴走することなんて。俺が死ねば、九尾が再び現れること、なんて。それだけの為に生き、生かされている。それがなければ九尾を封じられた時に殺されていただろう。何も知らぬ赤子の時分に。戦争の抑止力たりうる絶対的な力を手にした木の葉は飛躍的に発展してきた。俺が生きているだけで、木の葉は平和を享受している。






「…誰にも、俺を暴く権利なんて無いんだよ。例外無くお前もだ、カカシ」






お前は何も知る必要は無いのだ。俺の父や母の残した重苦しい願いなど。世界平和なんて自らなせばよかったのに。俺は決められた道を歩まねばならず、その父母の願いを叶えてやらねばならない。これは義務だ。九尾を持つ、人柱力として、火影の父を持つ者として。






「…ナルト、」






その先に伝う言葉は無い。何も無くてよいのだ。俺にかける言葉など。何も、何も。






「…じゃあな」






そう言って俺は立ち上がった。カカシは俺を見上げ、何かを言おうとしては口をつぐむ、という行動を繰り返している。笑いながら俺はその場を去った。






知らないだろう、俺が、お前を、好きだなんて。なあ…はたけ、カカシ。





-
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ