NARUTO

□忌むべき未来への束縛
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子供の誕生日は、里にとっての痛みだった。九尾の妖狐が里を襲い、英雄である四代目が戦死した日であるからだ。その日は忍、一般人に関わらず沢山の人間が死んだ。そして九尾を沈める為に四代目は自らの生命を糧に封印を施したのだ。そんな里の痛みの記憶は、癒えることなく今でも続いていた。






今日は里の通りにいつも響く子供の騒ぎ声が無い。誰も彼もが今日一日を静寂に過ごすのだ。子供は窓越しに人の通りを確認していた。時折ガラスに乾燥した風がぶつかるだけで、今はもう通りには誰もいない。子供はゆらりと立ち上がると、着の身着の儘窓枠に小さな手を掛ける。窓を閉め、裸足のまま窓枠を蹴ればそこにはもう、子供がいたという痕跡すら残ってはいなかった。






そのまま子供は走っていた。屋根伝いに街を抜けながら走っていた。それだが子供は里の人間に見つかることはない。神風と呼ばれ恐れられる速度で子供が走っているからだ。その裸足の小さく細い足が向かう先は、深い森。名を、死の森という。誰もが近付くことを嫌うこの森は子供にとっての安らぎと憩いの場であった。暫くして少しばかり開けた草原らしき所へと着くと、周りを確かめることなく腰を下ろした。





子供は何を思ったのか自らの首元へとクナイを宛てがった。そこへ、どこからともなく黒い影が現れる。別段驚いた風もなく子供はその影の方へと向いた。






「…もう見つかったか」
「…かなり探したんだけどね」






苦笑する黒い影は木々の間の闇から出て来た。影の正体は里で最も優れた男の忍だった。男は子供の隣に座り、次いでゴロリと横になる。それに子供は眉を寄せた。






「…オマエはオレを殺さねェのか」
「……そんな必要がどこにある」
「…オマエ、オレの監視だろ。殺せる立場にある」






子供は知っていた。実際に自らを殺すことが出来るのはこの男だけだと。それは権利という面でも、力量の面でも。しかし、男に子供を殺す気などなかった。そして男は子供のクナイを音も無く奪った。その瞬く間の出来事に子供は鋭く舌を打ち、顔を背ける。






「…オマエは忌み子の監視者だろ。公正にやってろよ。オレの前に姿を晒すことは御法度だろうが」






そう言って子供は自嘲気味に嗤った。忌み子とは里で忌み嫌われる子供。災厄をその身に負う子供。誰もが避け、罵る己を自らが愛せる筈もなく、子供は自らを傷付け始めた。それを止めさせる為に監視者が置かれ、身に負う呪縛に喰われかければ子供を殺すことも出来る。そして公正であらねばならないのが監視者。民の要望は子供を直ぐ殺すことで、生き長らえることなど望んではいない。それなのに男は子供に近付いた。今ではその距離はあまりにも近い。






「…やめて来たんだ」
「は?」






小さい呟きは子供の耳に届く前に拡散し、自然へと融け込んだ。聞きとれなかった子供が男へ内容を再度問い掛けようとした所で、男は子供の小さな手を取った。柔らかく小さい、細く白い子供の手。それを取った男はゆっくりと唇を寄せた。






「…俺はもう監視者じゃあない。俺は、お前を世間から護る剣であり盾だ」






それだけ言うと男は再び唇を付けた。温かい温度に納得しかけた自分を見つけた子供は慌てて反論する。しかし反論といえども大したものではなく、懸命に首を振るが、無駄なことだった。向けられた感情に戸惑う。自立出来る程強くもないし、縋り付ける程器用でもない。






「…何も要らないのなら、俺の忠誠をあげよう。目には見えないから束縛にはならない」






お前はお前らしくあればいいのだと子供に言って聞かせる。ドロドロに甘やかして、まるで毒の様に子供を堕落させてゆく。どこか退廃的な雰囲気など子供は気付くことなく、ただ与えられた言葉を咀嚼し飲み込むだけであった。それを男は嗤う。闇に紛れる程染まるのは、甘やかに融けたその後でよいのだと。跪いた男は、嗤う。子供はそれを知らない。男に渦巻く、激情の炎を。




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