NARUTO

□Ice Queen
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「……貴女が望むのならば、俺は貴女を連れ出すこともできるのですよ?」


無感情な瞳はその先の虚無を知る。
果ての無い喪失感はその身を焼き尽くし、燻る煙は狂った醜い人間の象徴だ。
どんな物よりも如実に表すその影を何よりも女は嫌った。


「…永遠では無いと、知っているくせに」


どこまで逃げても女王という“名”を持つからには、自由など無いのだ。
何処へ逃げようとも、安息の場所など無い。
女王とは、全てを得る代わりに全てを失う。
名を捨てた者に残されるものは何ひとつ無いのだ。
ましてや、永遠の誓いなど。


「…それでも、少なくとも貴女は笑える」


男はここ数年、女の笑う姿を見たことがなかった。
綺麗な顔で笑うのに無表情の仮面をつけることに慣れた女は泣きもしない、笑いもしない人形になってしまったのだ。
冷たい瞳はもう、誰も融け込むことの出来ない絶対的領域を作った。
青い瞳の色は女の暫く見たことのない空の色だ。
ガラスの様に反射するだけの単調な、それ。


「…笑い方なんて、無くしたよ」


遠い昔にな。


女は冷めた瞳を男に向ける。
いっそ恐ろしい程に無感情に見える瞳は責める様に男を睨んだ。
泣きそうに声だけが歪んで空気を伝わるのに、涙腺は壊れたかの様に何の変化も無い。
今にも消えてしまいそうに脆いのに誰もを圧倒させる威圧感はまるで溶けるチョコレィトの様だ。
甘い物体は人間を魅きつける存在感を垂れ流しながら温い地面に染みを広げて溶けていく。
跡形も無く、溶けて。


「…外には、出られはしないのですか」
「…今更、どうなりもしない世界を見たとしても、何かが変わるわけではないだろう?無意味なことはしたくないんだよ」


女の表情は何かを悟ったかの様に、定めに抗う風も無い。
酷く穏やかな口調で男を見詰める。
変化無き世界は女を飲み込みそれすらも知らぬかの様に全てを塗り潰す。
全てが染まる前に。
女は孤高でありたいと望んだ。
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