V

□きっと君が好き
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【きっと君が好き】



「こっちに来い、神子」
両腕を広げたユアンに一瞬だけ戸惑って、ゼロスは一歩踏み出した足を再び元の位置に戻した。
「いーや」
はあ、と吐き出された溜息が、どういう意図を含んでいるのか知っている。
それでもゼロスはにやりと笑って更に一歩下がった。
ぽかんと開いた距離。
このレネゲード基地の一室でそんな事をしたって所詮離れられる距離は限られているけれど、ゼロスは悪戯っ子の様にまた一歩後ろに跳ねる。
ふわりと、ピンク色の服の裾が踊った。
「…天邪鬼め」
「何とでも〜」
ぴょこんぴょこんと跳ねたゼロスは、部屋の扉に背中をつけてしまう。
いつでも出て行くぞという格好だ。
そうするとユアンは「ふむ」と言って向きを変え、ゼロスのいる方向とはまったくの反対側へ歩いて行ってしまった。
それから、振り返ってもう一度。
今度は優しい笑顔つきでゼロスに向かって腕を広げる。
「来い、ゼロス」
ぴょこん。
勢いをつけて扉から背中を離したゼロスは、その大きな一歩を踏み出してしまったのが恥ずかしくてそこから進めなくなった。
片足立ちの奇妙な格好のまま固まった彼の顔は段々と不機嫌になっていって、仕舞いには頬を膨らませながらユアンを睨みつけてしまう。
「…馬鹿天使」
「おや、阿呆神子には言われたくないな」
そう言って、ユアンは「来ないのか」とばかりに広げた腕を上下に揺らす。
「っああもう!」
堪えかねたゼロスが顔を真っ赤にしながらその腕に飛び込むまで、ユアンは意地悪な顔のままゼロスをみつめた。


 
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