V

□きらきら
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あ、まずった。

そう思った時には既に息が出来なくて。
「ヒスイ!」
「お兄ちゃん!」
叫び声もやけに遠くて、ああ、やっぱ溺れてんだ、と、ヒスイはぼんやり思った。



【きらきら】



魔物に追い詰められたコハクしか目に入らなかったヒスイが、その魔物を弓で射殺したまでは良かった。自分も魔物に追い詰められていたという事を失念していたのを除けば。
コハクの前にいた魔物が嫌な声を上げて消滅したのを見て息を吐いた瞬間横から物凄い衝撃に襲われ、意識がぐらついた。そのまま宙に投げ出されたヒスイは重力に従って崖から下に落下。
大きな水音が響いて、息が出来なくなる。それでなくても泳げないヒスイが意識すら朦朧としている状態で泳げるはずもなく、ゴポゴポと上っていく酸素を取り戻す事も出来ずに揺れる水面を見上げていた。

(あ、やべえ、しぬかも)
こぽ
(いきできないし)
こぽこぽ
(いたい、からだ)
ごぼり

身動きもせず光を反射して光る波を見ていると、突然大きな音と共に光が遮られた。小さな気泡がいくつも生まれて薄闇の中、上へと脱出していく。
その空気を持って来ていたのは、必死な顔で水をかき分けながら辺りを見回す少年。

(しんぐ)

きゅうと喉が鳴った。
限界に達した肺がじくじくと痛む。
水を吸った鼻がつんとする。
魔物にやられた傷が疼く。
朦朧とする意識が急速に遠のいた。

瞼が落ちる間際に見たのはこちらに泳いで来るシングを照らす、揺れる光だった。


 
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