V

□寒色マーブルグラス
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白髪と赤髪が、いっそその為に誂えたかのように綺麗な色合いを醸し出しながら寄り添っている。
食材屋の前で仲良さげに笑いあう二人は親友よりも更に親密そうに見えて、白い雲の間から射す光までもが彼らを明るく祝福しているようだった。
あにき。
チョコレートクリームが詰め込まれた瓶を指差して白髪の少年の肩を叩いた彼を遠くから見つめて思わず零れたはずのチャバの声は喉に貼り付いて、明るく笑う二人どころか自身の耳にすら届かない。
カスタードクリームの瓶を手にした少年に無理矢理チョコレートクリームの瓶を持たせて、な?と首を傾げる仕草。
それに仕方がないなと少年が肩を竦めた瞬間に、今度は隣から伸びた手がチョコレートクリームを奪って行ってしまった。
仲良く店の前で商品を覗き込んでいた二人が横に目をやると、赤髪の少年の隣から小柄な少年がチョコレートクリームの代わりにホタテを差し出している。
噴き出した彼らが結局三つの食材を購入して街に建つ一軒家へと向かうのを見届けてから、ようやくチャバは自分の声を耳にした。
「…あにき」


目の前で上がることのないテントの出入り口を見つめながら、チャバは小さく溜息を吐いた。
うろうろと前を行き来してみても、テントの薄汚れた布地に手をかけてみても、肝心なところで引き返してしまう。
(こんな時、あにきならすぐに中へ入ってくるんだ)
それから悩むのは嫌いだと言わんばかりに自身の心の内を吐露するのだ。そんな彼の性格が今は心底羨ましかった。
チャバはテントを見つめたまま動こうとしない手に歯噛みして、それでもどうすることも出来ず立ち上がった。
辺りはもう暗い。早寝早起きなモーゼス率いる山賊団は、見回りと火の番だけを残し寝静まっている。時折爆ぜる薪の音を聞きながらチャバは自分に割り当てられたテントへ向かった。
眠れないだろうことなんて百も承知だったが、ぱちぱちという音に背を向ける。ほんのり照らす月を一度だけ見上げて大きな溜息を吐き出した。


 
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