V

□ぬくもり
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きょとんとしたゼロスからそよそよと風に揺れる草花に視線を戻して、その内の一つに手を伸ばした。
黄色いその花はシルヴァラントのものと少しだけ似ていたけど、やっぱり全体的な形は違って。
(やっぱり全然違うんだもんな、こっちと…あっちじゃ)
そういえばさっきの鳥もなんだったのだろう。
シルヴァラントに居た鷹とは少し違ったし飛び方もテセアラ貴族の様に優雅だった。

凛とした美を持つ、花。
ふわりと風に乗る、鳥。

まるでテセアラのものたちはゼロスの真似をしているみたいだと少しだけ笑った。
「なによ、何が可笑しいの?」
小さな笑い声を耳聡く聞きつけたゼロスが不思議そうな顔をしたけど、そういえばテセアラのフラノールにいるペンギンはこんな間抜けな顔だよなぁと考えて更に笑えてしまった。
俺は勢いをつけて腰の力だけで立ち上がると、余計に眉を顰めてしまったテセアラのお手本に手を差し出した。
「ゼロス」
「ん?」
快く繋がれた手に力を入れて引っ張り起こしたら、ゼロスは何故かちょっとだけ頬を紅くして俺の手を更に握った。
ああ、こんな顔も知ってる。
しいなもジーニアスも、そういえば照れた時には不機嫌そうに口を引き結んで、それでも顔を紅くするんだ。
そして、まだまだ奥の方には冷たさを抱え込んでいるこの春の陽気も、ゼロスみたいだ。

俺は手を繋いだまま走り出した。
つられて転がる様に走って着いて来たゼロスは慌てたみたいに名前を呼んできたけど。

「あのなっ」
「だからなに……っ!」
くるりと振り向いて、止まりきれなかったゼロスを巻き込んで丘の上に転がった。

「もうすぐもっとあったかくなるし、もっと空も綺麗になるから!」
「!」
下にあるゼロスの顔は、蕩けそうに柔らかくて。
「早くそうなりゃ、良いね」

光と風と温もりを、いっぺんに抱き締めた。
両手を広げて。



end.
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