U

□さよならのその前に
2ページ/13ページ


【大嫌いだけど大切な人】



ロイド。
俺のコト、信じてくれなかったんだ?
ううん。
分かってた事、だし。
価値のない俺さまなんかより、お父様のが大切だろうし。
だから、だからさ。
俺、天使になるな。
感情も何もない、無機生命体に。
俺さまみたいにキタナイ奴が天使なんてキレイな響きになれるのか分からないけど。
ほら、俺、神子だから。
クルシスの輝石もあるし。
なれるよな。
天使になって、それで…。



「ゼロス?」
急に声を掛けられて、驚いて振り返った。
みんなから離れた場所に一人で来ていたのに。
黙ってロイド君を見上げていると、物凄く情けない表情を向けられる。
泣きそうな、叫び出しそうな。
「どしたの?」
そう言って、小首を傾げると。

どさっ

隣に温もり。
ロイド君が横に腰掛けてた。
「なあ、」
「ん〜?」
珍しく、目を併せず掛けられた言葉。
何、と促すと、ロイドは空を見上げて。

「何で、わざわざ外に来たんだ?」

空から舞い落ちて来る白の塊を手にとって。
一瞬で溶けたそれを見つめて。

「なぁんとなく、かな〜」

くすり、笑って言うと。

「嘘吐くなよ」

目を、見つめられた。
真っ直ぐに、射る様に

それから、紡がれる言葉。

「俺、知ってんだからな」
「…」
「お前が雪、嫌いなの」
「ッ…」

余りにも予想外。
誰にも言っていないし、バレない様に振る舞っていたのに。
何時か俺が裏切る奴等に、弱点ともいえる部分を見せるのは命取りだから。
なのに何で。

「…ん〜な訳ないでしょーよ」
笑い飛ばすと、ロイドの眉根が寄せられた。
「俺さまに苦手なもんなんてあるかっての」
言って、平気だと示す様に雪を手にとった。
目に映るのは血に染まった記憶の中の紅い雪。
それでも何とか平静を装っていると、軽い音と共に掌の雪が叩き落とされて。
体を暖かい物が包んだ。

「っひ…!……ッ」

フラッシュバック。
暖かい物は、母さまの血の筈。
そう思って喉まで出掛かった声が、止まる。

「…無茶すんなよ」

暖かかったのは、ロイド。
紅いけど、暖かいけど、大嫌いだけど。
何より大切なロイドの、温もり。

「無茶、すんな…」

暖かいけど、幸せで。
俺はロイドの背中に腕を回した。
強く抱き返してくれるのが嬉しい。
だから決めた。

(俺は、こいつに殺されよう)
この腕の中で死のう。

フラノールの雪は、真っ赤なままだけど。
continue.
挿絵(新倉すず様)
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ