V

□ほら、だって
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その日はやけに眠れなくて、ガイに話し相手でもしてもらおうと部屋を出た。
もう既に夜中で、使用人とはいえ寝ているだろうとかこんな時間に抜け出した事が知れれば起こられるのは俺じゃなくて俺が向かう先にいるガイだろうとか、考えなかった訳じゃない。
ただ、何となくガイに会いたくて仕方なかったんだ。

こつこつと音を立てる上質な素材で出来た廊下の上には赤い絨毯。
窓から差し込む淡い光の所為で何だかそれが自分達の中に流れる紅いものと重なった。
思わず後ろを振り返ったらそこにも紅。
ぞくりと背筋を寒いものが駆け上がってばっと前を見れば先の先まで紅が続いていて。
俺は走った。
少しでも早くこの光景から逃れたくて、ガイの部屋に着けばあの暖かい笑顔で迎えてくれる筈だと思って。
使用人が使う部屋ばかりがある棟に付くと、その床は赤い絨毯ではない。
敷かれているのは少しばかり褪せた青色の絨毯。
そこではたと思い出した。
今日のガイはこんな風な冷たい青色を秘めた怖いガイだろうか。
それともいつもの優しいガイ?
辿りついたガイの部屋の前で一瞬だけ迷って俺は静かに覗けるくらいの隙間を開いた。


 
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