V

□ほら、だって
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この時に、さっさと帰れば良かったんだ。
じっと見つめる先で、ガイの唇が震えた。
それがやけに綺麗に映って、そういえばガイの唇の感触だって知らないんだと、ちょっとくらい触れたって許されるよなと顔を近づけた。
それなのに唇が触れる事はなかった。

「…あね、うえ…」

哀しそうに誰かを呼んだガイに酷く苛立って、俺は思わずその唇を手で押さえた。
こんな感情知らない。
ガイは教えてくれなかった。
ガイが俺の知らない誰かを想って言葉を発するだけで、俺はこんなにも揺らぐんだ。
口と一緒に鼻も塞いでいたけど気を回せなかった。
んん、と呻いたガイが瞳を開けるまで、俺は多分泣きそうなくらい必死な形相でガイを見つめていたんだ。
ぱちりと目を開けたガイは、優しいガイだった。


 
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