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『さくらジャム』

「ローイド君」
ぴょこんと近づいたゼロスを見て、ロイドは掌に貯めていた桜の花弁を嬉しそうに晒した。
「あ、ゼロス!見てくれよ!」
「桜?…これどうするの?」
「ジャム作ってもらおうと思ってさ」
にこにこと笑うロイドはきっとジーニアスに作ってもらうつもりなのだろう。
既に美味しい味を想像して涎を垂らしそうに弛んだ顔をしている。
「幸せ者だね、ロイド君」
呆れた様に呟いて、ゼロスは丁度目の前に降って来た花弁を掴んだ。
染み一つないそれはやはりジャムにしたら美味しそうな色で、ゼロスはロイドが持っている篭にそれを放り込んだ。
「俺さまも手伝ってやるよ」
「まじで!?助かる!」
そうしてせっせとかき集め、いつの間にか篭にいっぱいの桜色の花弁。
「あー、つっかれた」
ぐぐっと伸びをしたゼロスに、ロイドが近づいて来て頭に手を伸ばした。
「ゼロス、ちょっとしゃがんで」
「なに?」
きょとんと首を傾げながらも桜のカーペットに腰を下ろしたゼロスの髪を左手で一房掬って。
「これお礼な」
「へっ?」
ちゅ、とゼロスの髪に口づけた。



「がきんちょ、これジャムにしてくれってロイド君が」
篭を持ってキッチンに行ったゼロスが昼食を作っていたジーニアスにそれを掲げて見せると、ジーニアスは「分かった」と答えて、ふとゼロスに視線を戻した。
それから。
「ぷっ」
小さく噴き出した彼にゼロスは少し不機嫌そうに「なによ」と言う。
するとジーニアスは可笑しそうにくすくすと笑って、ゼロスの髪を指差した。
「似合ってるね、アホ神子」
「…え?」
咄嗟に手をやると指先に柔らかい感触。
これは、もしかして。
「ロイドって意外と器用だよね」
聡い少年には何もかもお見通し。

口づけとともに髪に落とされた桜の髪飾りは、紅いゼロスのそれによく映えて。
「…ロイド君のばかぁ…」
真っ赤に染まった彼の表情にも、また。



end.
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