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□拍手ログ]U
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『春眠』

集合時間になってもウィルの家に現れないモーゼスを訝しんで差し向けられたのは彼の天敵であるジェイだった。
ジェイが広場に行くとモーゼスのテントだろうと思われる物の入り口に数人の山賊達が集まっている。
「どうかしたんですか?」
後ろから声をかけると山賊の一人、ザビが振り返った。
「あ、ジェイさん」
「何かありましたか?」
「あにきが起きないんです」



モーゼスを揺り起こそうとしていたチャバや他の山賊達を上手い具合言いくるめて追い出すと、ジェイは未だ眠るモーゼスに近付いた。
「モーゼスさーん、起きてくださーい」
あまり起こすつもりの無さそうな声量で、やはりそれにモーゼスが反応する様子もない。
豪快な性格に反して驚く程静かに眠る彼は野生の動物の様で。
(でも野生なら、気配で起きなきゃいけませんよね、普通)
少し悪戯してやろうと思った。



「んん……チャバ、おはよう」
むくりと起き上がり眠そうに目を擦るモーゼスを見て、チャバが溜息を吐いた。
「もう、あにきは…。ジェイさん達出発しちゃったよ?」
「ほえ?ほんまか?」
すぐに追うぞと意気込んでギートと共に用意しながら駆け回るモーゼス。
槍筒を肩に掛け、大陸の女子中学生宜しくパンを口にくわえた彼が「んじゃ行って来る!」と広場の出口に向かう。
その背中を見て、山賊達は噴き出した。
「?何じゃ?」
きょとんと振り返った愛すべき頭に、笑いを抑えきれずに涙を浮かべた彼らはその薄い背中を指差した。

『四月馬鹿』

丁寧な油性マジックの文字を知らされたモーゼスが物凄い勢いで書き手の元へ駆けて行ったのだから、とことん掌の上で踊らされているなぁと思ったのは山賊も仲間達も同じだった。



end.
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