V

□きらきら
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(きらきら…し、て)
誰かの影を縁取るきらきらを思い出しながら、ヒスイは小さく唸った。
もう息が出来る。苦しくないはずなのに、なぜか胸が圧迫される様に苦しい。
「…ンだぁ…?」
ぼんやりと霞む視界。木目の荒い煤けた粗末な天井。それに反して背中の下のシーツは柔らかい。
宿屋か、と回らない頭で理解して、胸の上に置かれている重い物を掴んだ。するとそれはヒスイの意思に逆らって勝手に動き、そのまま顔に近づいて来た。
頬に触れる温かいそれ。
「ヒスイ…目、覚めた?」
するりと撫でられる感触に冷えた頬が喜んですり寄る。自分の意思ではない、とヒスイは自分に言い訳した。
「おう…」
しぱしぱと瞬きをすると霞んだ世界が色を明確に示した。にこりと笑ったシングが覗き込んでいる。
もう夜なのか部屋には小さな明かりが灯されている。シングの背中の向こうから照らす淡い光。
「あ」
それを見上げて声を上げたヒスイは、あの水面の光を思い出して笑った。
「きらきら、だ」
「え?なに?」
不思議そうに首を傾げるシングがきらきらを背負って自分を助けたのだ。
だったら淡いきらきらを背負った少年は、今度も自分を救ってくれるはずだ、と。
ヒスイは小さな声で「取り敢えず、水」と言ってみた。

差し出されたのは水差しでもコップでもなく、きらきらの彼の唇だったけれど。



end.
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