V

□幸せ left out
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「ガイラルディアー」
「わあ!」
ぺろんと服の裾を捲って尻を撫で上げると奇声を上げて退いた。なかなかの反応速度だ。
ふむ、と考えるふりをして、俺を睨みつけるガイラルディアの注意を引いてみた。案の定「どうかなさいましたか?」と首を傾げる。うん、素直な奴は好きだぞ。
「ガイラルディア…」
「…何でしょう?」
真面目な顔で見上げるときょとんとした顔が引き締まった。少し固くなった声にこちらが内心ああ可愛い奴め、と笑っていることは知らんのだろう。
じっと見つめあいながら、さも大切な話のように低い声で呟いた。
「良いケツだなぁ。ジェイドは相手をケツで選んでんのか?」
「!」

どかっ!

「いっ……!」
痛いっ!今のは痛いぞ!普段身軽に跳ね回りながら剣を使うガイラルディアの姿を見るのは好きだがそれをここで使うんじゃない!避けるどころか受け身もできなかったじゃあないか!まさか臣下に上段からの勢いある回し蹴りをされるなんてどこの皇帝が思うかっ!
「…皇帝なのに…」
痛い。皇帝なのに痛かった。
ぽつりと文句を言うと目をつり上がらせていたガイラルディアは途端に眉を下げた。慌てて俺の前で膝を折る。
「…大丈夫ですか?もっ……申し訳ありません…」
よしよしと頭を撫でられる。あれ?俺が年上じゃなかったっけ?
でもついでだから痛かった仕返しとジェイドへの嫌がらせを含めべたべたに甘えてやろうとガイラルディアの綺麗な首筋に手を伸ばした、が、すぐに引っ込めた。
外からカツカツと聞き慣れたくもないのにすっかり聞き慣れてしまった奴の足音がしたからだ。
ガイラルディアも気づいていたらしい。さっきまでの心配そうな顔はどこへいったのか些か嬉しそうだ。あれ、俺、皇帝なのに臣下に負けた。
カツンと足音が部屋の前で止まった。律儀に二回ノック音。そしてすぐ滑らかに扉が開いた。
「ガイ、迎えに来ましたよ」
俺の返事を待たずして入って来るとは。ノックした意味は何なんだ。
しかし本当にガイラルディアから手を離していて良かったと思う。笑顔を浮かべている奴の目は確実に「オイ手ぇ出してないでしょうねこの馬鹿」と言っている。俺、皇帝なのに。あ、今の四回目だ。
ふてくされてガイラルディアに帰って良いぞと手を振ると、ガイラルディアとその奥の奴がにっこりと笑った。ああ、太陽の後ろに不気味なものを見た気分だ。
「ありがとうございます、陛下」
「すみませんねぇ、へーいか」
「キモい。コワい。さっさとガイラルディア連れて帰れ」
後退さって可愛い方のジェイドを抱きしめると奴はフンと得意気に笑った。俺、皇帝なのに。皇帝相手にあの笑みは何だ。不敬罪だ、訴えてやる。
そう思いながら立ち上がると腕に力を込め過ぎたのか可愛い方のジェイドがプギーと暴れて腕の中から逃げ出した。あああ!これも奴のせいだ!
「陛下、また明日来ますね」
明日は滝の下まで散歩に行こうな、といつの間にかガイラルディアの足元に擦りよっていた可愛い方のジェイドを撫でて、立ち上がる。
「では陛下」
「お疲れさまでした」
ぱたん。
ああ、扉が閉じる瞬間、見てしまった。
あいつら、皇帝の部屋の前でいちゃいちゃと手ぇ繋ぐとは何事だっ!
あああおいで可愛い方のジェイド。お前にも可愛いお嫁さん探してやるからな。
ふぅと息を吐いて、窓の外を見た。流石に手は離していたが、笑い合いながら帰路を辿る二人がいる。
「まああいつらが幸せなら構わんか」
そうだ、可愛い方のジェイドのお嫁さんはガイラルディアという名前にしてやろう。きっと真っ赤になって怒るだろうガイラルディアを想像すると、とても良い考えだと思えた。
しかしニヤついた笑顔を浮かべる奴を思い浮かべて、この件は廃案という事にしてしまおうかとブウサギを撫でながらぼんやりと頭のごみ箱に立案書を捨てた。
何で捨てるんですかと脳内でガイラルディアを抱えた奴がミスティック・ケージを撃ってきた気がする。
「あれ、俺、皇帝なのに」



end.
ギャグも誰か視点も難しいですね…。すみません。

粉雪様にのみフリーです。
リクエストありがとうございました!
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