V

□一緒にいて
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彼らは上機嫌だった。
久々に帰宅してきた弟は相変わらず剣の才能に恵まれていたが、そんなもの人数差と少量の薬で何とでもなった。
以前のように蹴っても殴っても、果ては殺してしまったとしても許される極上の玩具が再び手中に戻ったのだ。
その日も朝からストレスを発散させた彼らが優雅にそれ一杯分の金で貧しい人を暫く養えるだろう紅茶を飲んでいた。
もう何をしても呻き声を上げることすらしなくなった弟だが、それでも歪んだ家族には最高の娯楽だった。
その時の事を面白可笑しく話していた彼らを突然襲った衝撃。
揺れた視界と投げ出された身体に何かが起こったのだと彼らが気づくより早く、強く頭を殴られて全員が意識を失っていた。


ぼんやりと霞む視界。
それでもふわりと漂う意識は、冷えていたはずの身体の異変に気がついた。
(あった、かい)
ゆらゆらと揺れる身体は仄かな暖かさに包まれていて、幸せだと、思った。
(あれ。おれ、しんだんかな)
先程までの寒さが嘘のように温もりを取り返した身体。スパーダは安心したように笑んだ。
(もう、いたくない。さむくもない。さびしく、ねえ)
「りかるど…」
すんと鼻を鳴らすと、硝煙の匂いに紛れたリカルド自身の匂いがした。
「…りか、るど」
「何だ。ベルフォルマ」
「……りかるど」
返事が聞こえた気がしてもう一度呼ぶとふわりと一瞬身体が浮いた。再びとすんと落とされて、おぶわれていると分かった。
(りかるど、だ)
「お前が過去と向き合えれば、と思ったのだがな…」
無事で良かった。遅くなってすまん。
数日かけて忍び込む道を探していたリカルドは疲弊しきったスパーダに申し訳なく思いながら、自分のコートを被せた身体を優しく揺すった。
ふわふわ。ふわふわ。
温かくて、気を失う前の悲しみが嘘のようで、幸せの中でスパーダは目を閉じた。
「りかるど、わりぃ。ちょっと、ねる」
「…ああ」
すとんと落ちた意識に、それでも不安はまったくなかった。

もう家には戻れないけれど、この背中と共にいられるのなら。



end.
無駄に長くなりました。すみません…。
多分リカスパは書いたことがなかったのですが、楽しかったです!

きな子様様にのみフリーです。
リクエストありがとうございました!
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