V

□寒色マーブルグラス
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「チャバ…ワレな」
ハハハ…と情けない声を出してチャバが苦笑いした。
彼の左腕には今し方モーゼスが意外にも器用な動きで巻きつけた包帯が白く目立っていて、それをぷらぷらと振ったチャバは申し訳なさそうに眉を下げる。
彼らが得意とする狩りは、しかし命の危険を伴うものだ。失態を犯した彼がこれだけの怪我で済んだのは寧ろ幸運だった。
「何でぼーっとしとったんじゃ」
残りの包帯をぱちりとピンでまとめて箱の内底の下に仕舞う。それから立ち上がって棚まで薬箱を運んだ。
拗ねたように薬箱を片付ける年下の頭に当然の質問をされて、チャバは言葉に詰まった。ここで昨日自分が心の内に留めていたこととそれによって眠れなかった事実を言ってしまえば、きっと後々お互いが自責の念に駆られてしまうだろうことは容易に想像出来る。
しかし他に適当な理由も考えつかず、結局チャバは「ちょっと寝不足で」とすまなさそうに笑った。
ぺちん。
「いたっ」
額を襲った衝撃に目を瞑ったチャバがそろりと瞼を上げると、珍しく怒った表情のモーゼスが上目に睨みつけていた。
「あ、あにき?」
「チャバは、バカじゃ」
「いてっ!ちょ、痛いってあにき」
ぺちぺちと連続してデコピンされたチャバが手で身体を支えながら後退ると追いかける細い身体がのし掛かって来た。
腹の上に座られて身動きの出来なくなったチャバが「あにき?」と俯いた彼を見上げると、「ワレなんか知らん」とつれない返事だけが返った。それでも下にいるチャバからは揺れる瞳が見えているのだ。そっと頭を撫でると微かに肩が震えた。
ぐず、と鼻を啜る音が響く。
「…あにき、泣いてるの?」
「泣いちょらん…」
首を振ると乱雑に伸びた髪がぱさぱさと舞って、その隙間から小さな雫が振り落とされた。前髪で隠そうとしているが泣いているのは明らかだ。それでも泣いていないと意地を張るモーゼスの涙をチャバの左手が受け止めた。
「…あにき」
「チャバが悪い…」
「うん、ごめんね」
「ワレが怪我した聞いて、死ぬんかと思って、怖かった」
「ごめんね…」
掌で掬いきれなかった涙がはたはたとチャバの服に染みを作る。色が濃く、冷えたそこをまた新たに落ちた雫が塗り替える。
「…ワイをおいてったら、許さんのじゃけえの」
ヒクリと喉を震わせながら右目を擦ったモーゼスに上半身だけ起こして顔を近づけたチャバは、赤くなった目尻に優しく唇を落とした。
「うん。ごめんね、大好きだよあにき」



end.
マーブルグラス…数種類の色ガラスを溶かして練り合わせた大理石模様のガラス。

シリアスか甘とのことでしたのでシリアスに少し甘を足してみました。
お待たせしてすみませんでした…。

雀様にのみフリーです。
リクエストありがとうございました!
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