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□守り人
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あんたは、俺が…。
俺が、守りたかったのに。



【守り人】



「私がお前達を守ってやる」

そんな事、言わないで。
俺があんたを守るんだから。
守って貰いたくなんかありません。
上司に守られるものじゃない。
部下が、命懸けで上司を守るんですから。


だから。


「おいていけよっ…!!」

あんたの足枷には、なりたくないから。
本当は、最後まであんたの背中を守りたかったけど。

このままだったらさ。
横暴そうだけど実は優しいあんたは、きっと何時までも俺の事を引きずるから。

「おいてけよ!!おいてって…くれ…。頼む、から…」

上司の胸倉掴みながらいう台詞じゃないと思うけど。
もう、俺は駄目だから。
あんたの邪魔にしかなれないから…。

***********

夜。
誰もが寝静まる病院で、金色のそれは一人窓の外を眺めていた。
無感情な瞳で。
無慈悲な月を。

かたん

不意に、扉が滑る音がした。
それでも特別反応する訳でもなく、顔を向ける事もなく。
無感情に無表情に無意識の内に。
街ごと照らす、月を眺める。

かつ かつん

足音が自分の隣で止まっても、視線すら寄越さずに。
顔を歪めているであろう客人に只、無感情な背を向ける。

感覚の無い足が、ずくんと疼いた気がした。

「…」
「ハボック」
何も答えない彼に、客人は眉を顰めた。
「…ハボ」

(何で、この人は)

おいていけと言ったのに。
おいていくと言ってくれたのに。
何故、捨てて行ってはくれない。

頭の隅に浮かんでは消える言葉。
ハボックは、只静かに発せられる自分の名前に耳を傾けた。
後ろの陰が、動く。
さらりと、衣擦れの音がやけに大きく聞こえた。


ぎゅう、と。


音が聞こえそうな程に、強く強く抱き締められていた。
「……たい、さ…?」
そうされて初めて、喉がか細い振動を発した。
「…ああ、私だ。ハボック…」
後ろから、大切な物を扱う様に。
それでも、強く。
抱き締め囁く。

その腕が、声が、鼓動が。
余りに優しすぎて。
今迄耐えていたすべてが、堰を切った様に溢れ出した。
「…た、いさぁ……」
漏れ出た声は、確かな感情と意志を持って。
自分を抱く腕に、自ら掌を重ねた。

「大佐…たい、さぁ…」
「ジャン…」
「っ…ロ、イ」
「ジャン、すまない。…すまない」

ロイの唇が、ハボックの耳を掠めた。
「      」
「っ…!」


“やはりお前をおいては行けない“



end.

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