V

□ぬくもり
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水で伸ばした青の絵の具みたいに薄く遠く広がる空。
それを君と二人で見上げられたなら。



【ぬくもり】



「春だねぇ」
ぽつりとゼロスが呟いたから、思わずじっとそっちを見てしまった。
隣に座るゼロスはまるで風に浚われるんじゃないかってくらい希薄な気配をして、短く刈られた草と一緒に紅い髪を靡かせている。
俺達の背後にある木は、真昼の南からの日を浴びて緩く緩く俺とゼロスに影を落とし、遠く眼下に見えるメルトキオの街はそんな暖かな光を浴びて活気づいていた。
「…どうしたんだよ、急に」
先程のゼロスが行った様にぽつりと返すと、ゼロスは「んー?」と笑って、その後少しだけ茶化す様に口元を緩めた。
「動物達の発情期だねって」
「……バカだろお前」
「あー!ロイド君にだけは言われたくないなぁっ!!」
近くにあった小石を拾って投げつけてきたゼロスはそれでも言う程怒ってもいないのか、それは服を通してまで衝撃を与えるものではなかった。
ゼロスはぷくりと頬を膨らませて、「ロイド君が一番バカなんだから」とぶつぶつ呟いている。
そんなゼロスに思わず笑みを零して、ふと視界を横切った影を追って高く高く風に呷られながら飛ぶ鳥を見上げた。
時折強い風にぶつかってはふらふらと危く揺れるその姿を見つめていると、それは丘の麓の町の貧民街へと消えて行った。
「餌でもとりに行ったのかなー」
「なにが?」
俺の突然の言葉にゼロスが首を傾げるから、何でもないと笑い返した。


 
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