頂き物

□初夏の遠泳
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「なぁなぁ今井っ!!」
MLS――魔法律学校の寮の一室に、活発そうな声が響く。
「泳ぎに行こうぜっ♪」
そういったのは毒島 春美。MLSの生徒である。
外は、まだ初夏とはいえ、鋭く照りつける太陽がうらめしくなるような陽気。
それは魅力的な提案だった。
「うん、いいじゃないか。いつだ?どこに行く?」
毒島のルームメイトである今井 玲子は落ち着いた様子で詳細を尋ねた。

「明日、無人島っ!!!」

ごほっげほっ!

「……すまない、なんて?」
今井は思わず噴出した牛乳をぬぐいながら訊く。
「無人島だって。明日」
「それはアレか。ヒトが住んでいない島か」
「うん」
………。
「何故にわざわざそんな辺境で海水浴に興じねばならないんだ!?」

「ほらっ、コレだよ」
毒島はピラリ、と。紙を一枚取り出して見せた。
内容は、というと。
「ふむ……希望者の課外授業として、漁場となっている無人島の悪霊を祓え、と?」
「そv つまり、タダで自然たっぷりの海だぜっ♪」
もっと重要な任務の存在は全無視な毒島に呆れつつ。今井は申し込み締め切りを確認する。
「今日の5時って……あと30分しかないぞ!先着2名だし!!」
「安心しろって!もうやっといたからww」
(私に選択肢ははじめから無いのか!?)

まぁ、そういうコトで。
「着いたぁっ!!」
「暑いな……」
2人は漁船に乗せてもらって、無事に無人島に着いた。
漁船には待っていてもらって、さっそく今井は荷物を整理する。
「毒島、必要なものは持ってきたな?」
魔具を取り出していく今井に、毒島はにっと笑って。
「おう!水着もボールもばっちりだぜ!!さぁ行くぞ!!」
「おいこら待て」

漁師のおじさんはすこぶる不安そうに今井と毒島を見送ってくれる。
とにかく。
「よし!まずは悪霊を探すぞ!!」
「え〜、こっちにはウニがいるぞ?」
「置いといてあげろ!!!」
ウニを愛おしそうに眺める毒島をずるずると。今井は島の中心部の森に向かう。
「しかし、何の気配も感じないぞ?なぁ毒島」
「う〜ん、たしかにそうだけど あっ、ホラかわいいヤドカリが貝を」
「おちついて引っ越させてやれ!!!」
まぁ、とにかく。
おじさん達が恐々と見守る中、あたりを探していた2人だが。なんにも、ない。
「ホントにいるのかよ、悪霊なんて……」

そのとき。

ぶわぁっと。勢いのよい。


……風が。

そしてそのとたん。
「わぁっ、アレは……!?」

何かが膨れ上がった。まるでおおきなクラゲのように。

「「「わぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!」」」
漁師のおじさんは全力で、船を走らせる!!まさに海の男、である。

「っておい!置いてってじゃん!!!」
「しかも、アレ」
今井はクラゲっぽいモノを指差す。
「船の帆の様なのだが……」
たしかに、風にあおられて膨らんだソレは、木に引っかかった、帆。
海の男の勘違いだった、と。そういうコトだったらしい。
「って、それじゃあ私たちは!?」
毒島が引っ越し中なヤドカリをつんつんしつつ尋ねる。
「意味も無くやってきて意味も無く取り残されたらしいな」
ヤドカリをつんつんから救出しつつ、今井が応えた。

2人の心が、1つになった。
((うわぁ虚しい!!!!!))

なにはともあれ、だ。
「このままじゃあダメだろうな……」
「あの調子だと助けも期待できんな。よし」
今井の頼りがいのある声に、毒島は振り向く。
「なんか考えがあるのか?」
そんな毒島に、今井は弾けるような笑顔で。

「泳ぐか、毒島」
「余裕だな!!!」

即座にツッコミ。しかし、今井の泳ぐ、というのは、毒島の想像を超えていた。

「あの陸地までな」

……。
「20kmはあるんだけど」
「そうだな」
「遠いんだけど」
「お前が望んだ海水浴だな」
「私にはそんな体力はないと思うぞ」
「安心しろ。私が行ってこよう」
「え、おい。無茶だって」

ざぶんっ

「今井〜〜〜〜!?!?!?」
「待っていろ、毒島!!」
「いやいやそんな爽やかに言われても!!!」

その出来事、後に、今井の『不死鳥伝説』の1つとして語られることになる。
本人達にすれば、ただただ毎日を楽しく感じた日の、笑い話だが。

まだまだ夏には遠い、しかしキラキラと日差しのまぶしかった、ある日のおはなし。


 
 

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