五條悟と時渡るJK〜過去いま運命論〜(dream)
□01-時渡るJK
1ページ/1ページ
人は生きてると誰でも設定を持ってるよね。
アミの設定はね、ちょっと特殊なんだー。
普段は超絶かわいい女子高生!
だけど! なんと! その実態はバケモノと戦うヒーローだったのでした!ってやつね。
めっちゃダサくてウケない!? どこの子供向け番組って感じ!!
アミはぶっちゃけ、ヒーローなんてどうでもいいんだ。
グロキモイバケモノと戦うなんてつまんないし。怖いし。面倒。
友達と馬鹿して遊んで、オールして。美容トークに、女子トーク。
結論の出ないコイバナに、男の子を適当にコロコロして、“パパ”からご馳走してもらって。
そんなキラキラピカピカで、楽しくて愉快なだけの女子高生生活を送りたい。って思うのは普通の事だよね!
アミは高校生になってから“キラキラピカピカ”は叶えられたけど、“設定”からは逃げられなかったみたい。
残念だけど、今日、アミのキラキラピカピカなJK生活は終わっちゃう…。
史上最強のバケモノである、ごじょーさとるを倒さないといけないから。
なんだっけ? アミって、対ごじょーさとる用作戦兵器? らしくって。
アミは不思議な力を持ってるだけのか弱い存在だから、そういう設定、本当にいい迷惑。
まあ、アミは約束を守る女だからさ。
とりあえず、ちゃんと約束は守ろうと思ってるよ。
※
まるい月にうっすら雲がかかった夜。鈴虫とかコオロギとかその辺の虫が鳴いてる森の中。
海外の多分ヨーロッパとか、そこらへんの国をモチーフにした大きな大きな館。――その館の中にアミはいた。
施設の大人たちと一緒にろうそくの明かりだけの暗い廊下を進んでいく。
館の奥に到着すると、施設の大人がさびだらけの鉄製の扉を開ける。
扉の奥には小さい体育館くらいの空間が広がってた。ぜんぶの窓がカーテンで閉まってる――時を渡るギシキを行う部屋だ。
床には大きな“マホー陣”が描かれてる。
「ああ、やっと来たか」
中にいた男がアミに笑いかけてきた。見た目だけは若作りしている“施設長”の“ジジイ”――施設で一番強くて権力がある人間だ。アミの大っ嫌いなヤツね。
でも礼儀正しいアミはきちんと笑顔でジジイに挨拶を返してあげる。
「はぁい。アミだよ。くそジジイ、まだ生きてたの? ウケるんだけど」
施設の大人たちがアミの言葉を聞いて、息を飲んだ。
まあ、ジジイにこんな風に言えちゃうのは、もうアミしかいないからね。
ジジイはアミの言葉を無視して、勝手に話を進める。
「アミ。お前に与えた束の間の自由。それと引き換えに僕と約束したことを覚えているかい?」
「ごじょーさとるを殺すためにアミが過去に行く」
「ザッツグレイト!! 僕の神の力でもって、アミを過去へ送る」
指パッチンをして、ドヤ顔をしてくるジジイ。うわー、ウザキモ。。。
「お前の“道具送り”を延期したのは、ゴジョウサトルを殺すためだ。お前はその義務をこれから果たさねばならい」
歯をギラリと輝かせるジジイ。整形お化けの気持ち悪い顔の笑みを深めた。
「時は満ちた!! あの忌々しいゴジョウサトルを葬りさることが出来る日がやっと来たのだ!! アーハッハッハッ!!」
お腹を抱えて笑い叫ぶジジイ。
アミ知ってる、これ“ほーふくぜっとう”ってやつでしょ。そのまま笑い死ねばいいのにね。
死んじゃえ!ジジイ! ――て心の中で言ってみるけど、馬鹿笑いするジジイはそのままだから、現実の厳しさに絶望しちゃう。
「……」
アミは無駄が嫌いな女だから、とっとと“マホー陣”の真ん中に移動した。
過去に行く方法とかの説明は、耳にタコが出来るほど、何度も何度も、もうめっちゃ聞かされまくってた。
あとは今日、ごじょーさとるを殺すために、アミが過去に行くだけだ。
「アミ、受け取れ」
マホー陣に投げいれられたのは、2つの指輪と分厚い封筒。
指輪の方はアミの不思議な力を一時的に無効化する、いわゆる“お助けアイテム”。
これがないとアミは“もう一つの不思議な力”のせいで、ジジイの力を受ける事ができなくて、時間旅行が出来なくなってしまう。
アミのための特注品らしいけど、一体どれだけの……――いや、これ以上考えるとガチ萎えするから、やめよう!
アミは深く考えることをやめて、床に転がっている指輪を拾いあげた。
一つを指にはめて、もう一つは重要アイテムを保管してるウサタンポシェットにしまう。
分厚い封筒も拾って確認したら、しっかり封が閉じられてた。
「それは過去の僕に渡しなさい」
アミはその言葉で、ああ、と納得した。事前の説明でそういえば聞いてた。
未来のジジイから過去のジジイへの手紙――いわゆる指示書ってやつ。
この指示書を過去のジジイに受け渡す事で、ジジイは今の地位まで上り詰めた。
当然だよね。どうすれば成功できるのか未来の自分が教えてくれるんだもん。
アミは無言でゴルフバックを下ろすと、分厚い指示書を中にしまった。
指示書を過去へ渡すための方法。
ジジイの力を受けいれられる不思議な力「じかんそこーひじゅつ体質」を持ってる子が、過去へいって過去のジジイに会って指示書を渡す。
アミには不思議な力が2個あるけど、そのうちの1個がこの力なんだって。
ちなみに過去へタイムスリップすることをアミ達は“過去送り”って呼んでる。
アミの他にも過去送りになった子はたくさんいる。
全員戻って来た時には死体になってたけどね。
でも、アミの中には自分が死んじゃうっていう不安は無いよ。
だってアミが過去で死んで困るのは他でもなく、施設の大人やジジイたちだから。
アミが死んで帰ってくるような事があるなら、そもそもアミを過去送りになんてしない筈なんだよね。
アミはそこら辺までしっかり考えられる子だから、“過去送りの時に死ぬ”って事に関してはないと思う。
――ていうか、一番危ないのって帰って来た後だしねー…
ゴルフバックを担ぎ直しながら、ぼんやりと過去から戻った時の事を考える。
死ぬか殺される予定しかしなくて生きる元気がなくなりそうになっちゃう。
とりあえず死ぬまでは楽しく生きたい!うん、頑張って楽しく生きよう! とアミは心の中で決意した。
「餞別だ。これも持っていけ」
いうなりジジイが乱暴に投げてきたのは、小瓶だった。
瓶が割れたらどうすんの? バカじゃないの?って思いながら、小瓶を拾って中を見ると、カプセルの錠剤みたいなのが入ってた。
「何これ?」
カプセルなんて、なんか説明受けてたっけ? と首をかしげる。
「記憶消去薬だ」
「きおくしょーきょやく?」
そんなのも分からないのか、とジジイは馬鹿にするような顔をした。うわ、ムカつく。
ジジイの回りくどい説明を簡単にすると「記憶を消したい相手にこの薬を飲ませた後、意識が落ちる直前に見た人間に関する記憶を消せる」ってことらしい。
話を聞いたけど、やっぱりそんな説明を受けた記憶はなかった。
ジジイたちの説明責任不足じゃん、とアミはジト目になる。
「ちなみにお前がその薬を飲んでも効力はない。――あとは好きにしろ」
「ふーん…」
頭のいいアミは何故ジジイがこの薬を渡してきたのかすぐに理解できた。
理解したアミは、まあまあ大切だろうこの薬を、やはり重要アイテムを入れてるウサタンポシェットに入れる。
「準備はいいか。アミ」
「てか、早くしてくれない? アミ、今の時点でかなり疲れてるんだけど」
ジジイはウザいし、背負ってるゴルフバックは重たいし、夜も遅くて眠たい。
疲れる要素しかない状況に、さすがの元気少女のアミも開始前からお疲れモードだ。
ジジイはアミの言葉をまた鼻で笑うと、ギシキを開始した。
マホー陣の線が、徐々に光っていき、キラキラした粉みたいなのが、あたりに満ちはじめる。
ろうそくの光しかなかった部屋がどんどん明るくなっていき、さっきとは別の部屋みたいに神秘的な光に包まれた。
「さあ、ショータイムの始まりだ」
ジジイがそう言って、また指パッチんをする。
乾いた音が鳴り響いた後、アミの世界は真っ暗になった。
→
次の章へ
←
前の章へ
[
戻る
]
[
TOPへ
]
[
しおり
]
カスタマイズ
©フォレストページ