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□短編
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病院と街へ出かけた翌日
新零が風邪を引いた

心臓だけでなく、体力やそういった身体自体が脆いのだろうか

この家に風邪薬なんてものはなく
買い出しに行く羽目になった

子供とは実に面倒だ



『・・・・まま・・』

「・・・・・・・・」

『・・・・・・・いか・・ない・・・・で』

部屋に戻れば、魘されているのか
譫言で人を呼んだ

彼女の母親は、システムに捨てられた彼女を娘と認めなかった
血のつながりよりも、システムの判断を優先した

それでも、求めるのか
そう尋ねたい


流れる涙を拭ってやり
薬を飲ませるために目を覚まさせ
体を起こした

「薬だ・・・飲めばすぐに治る」

ぼーっと何かを見つめるように俯いている新零に声をかけるが
反応はない、まだ記憶を思い出しているのか
目からは涙が流れ頬を濡らした


熱い頬に触れ、熱を持つ唇を指で無理やり開け薬を入れ
水で流し込んだ

少女の瞳は僕を捉えたが
何も言わずに、その目を閉じた


「今日は約束がある、いい子にしているんだ。いいね」

再び開けられた瞳が少し不安そうに揺れる

「・・・置いてなんていかない。」

『・・・・・・またね?』

「ここは、“いってらっしゃい”かな」

『そう・・・いってらっしゃい』

「いってきます、新零」




僕がしていることを知ったら君はどうするのだろうか
怒るだろうか
罵るだろうか
いや、どれも違うな
新零は、私には関係ないと好きにすればいいと言うだろう

なら
“椿 菖蒲” を殺す手段を与えたら、少女はどうするのだろうか











図書館に来る前の記憶

文字と言葉を教えに来る人
検診に来る人
面倒を見に来る、ドローン

あとは、本と本と本と・・・・



男に言われた
君の色相は真っ黒だと
それ故に、人ではないと

女に言われた
気持ちが悪いと
娘なんていなかったと

ヒステリックに叫ぶ女を男は必至になだめようとした
色相が濁ると、セラピーを受けようと

黒髪の子供がいた
名は菖蒲と言った

男は、女に言った
娘は正常だと


自分が、この女から生まれたと知っていた
教えられたのか、直感だったのか覚えがない






心臓が痛い


手を伸ばしても誰も掴まなかった
助けを求めても誰も、助けてくれなかった


苦しくて
寒くて



怖い
怖い
怖い・・・・・・・・

強く目を瞑った




階段を上がる音がした
声が聞こえた
黒か白か・・・・・





“こんなところで、何をしているんだ?”

“本を読んでいるわ”

“1人で?”

“ここに来たのは、貴方が初めて”

“・・・・・親は、どうした”

“・・・・・・知らない”

“・・・・・・・・”

“ねぇ、届かないから取って”

“・・・上の段を全部か”

“ええ”

“・・・ちょっと待ってろ”

黒い人は梯子を片手に戻って来た

“これなら、届くだろ?”

“・・・・・・・・・・”

音が鳴って
何かを話した後
名前を聞かれたが、答えなかった














「こりゃぁ、随分と時間が経ってらっしゃる」

「・・・・・・」

「どうした、狡噛」

「ここに前に来たときは、この奥に真っ白な女の子がいた
 だが、図書館は閉鎖され、エレベーターからは死体があがり、少女はいなくなった」

「ってことは、その可憐なお嬢さんが、こいつを殺って逃げたか
 はたまた、別の者が手を貸した・・・俺は、そのお嬢さんを見てないから何とも言えねぇけど?」

「後者だろうな。あんな小柄な少女にできる犯行じゃない」





後日
椿の名前が挙がった
だが、それ以上、何も出なかった
研究職の父親と専業主婦の母親、学校に通う娘
過去に一時的に色相が濁った形跡はあるが
誰一人と、潜在犯の可能性はなかった

なら、俺の見た少女は、何者だったのか

すぐに、あの図書館を訪れなかったことを後悔した



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