首
□六面体
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暑い日は耳鳴りがする。まるで体感温度の針が危険区域に侵入しましたとでも云いたいかのように。日中は陽射しが肌を焼くが、どちらかと言えば夜中の方が質が悪いと俺は思う。日本の蒸し風呂のような湿気は一体何なのだと理由もない姿もない何かに、ただただ八つ当たりするばかりだ。京都などの盆地と比べればまだ季節による攻撃は幾分柔らかいのかもしれないが知るか、そんなこと。ズキズキと痛むこめかみに手をやり、纏わり付く見えない湿気を睨む。まるで子供のようだと解っていながらこんな場合でも我慢をしなければならない理屈は存在しないと常識に嵌まった自分式ルールを発動させる。ああ、イライラと痛みが混じって吐き気がしてきた。
「大丈夫?シズちゃん」
ギシリ、とベッドのスプリングが軋む音。斜めに視界を開けば片手に硝子のコップを持った臨也が腰掛けていた。
ズキン、ズキン、
はい、と手渡されたコップには透明色の水が揺らめいている。俺はそれを一息に飲み干し、焼き切れそうな渇きを緩和することを主とした。
「うなされてたけど平気?」
汗でペたりとなった髪を掻き上げられる。優しく触れてくる臨也の手は冷たく、荒くなっていた呼吸が徐々に落ち着いてきた。
「ねぇ、シズちゃん」
「・・・・なんだ」
「シズちゃんは、弱いよね」
スルリと頬を滑る臨也の手を思わず掴んでしまった。
「可哀相じゃないけど可哀相に」
その目は本当に普通のままで。
義務のように口にするだけの空虚すぎる言葉は羅列されては落下していく。ああ可哀相。
臨也は立ち上がり月明かりの差し込む窓辺まで。まるでスキップでもしているかのような軽やかな足取りで。
くるり、
半回転
にこっと笑います
「シズちゃんシズちゃん」
また半回転
背を向けて手を伸ばす
星がとれれば願いが叶うのよ
「俺のこときらい?」
「ああ」
「殺したいくらい?」
「ああ」
「俺のことすき?」
「ああ」
「そっか、じゃあいいや」
よかったよかったと臨也は心底嬉しそうに笑う。
俺は水分を吸って寝るのに適さなくなった場を離れ、同じく窓辺へと移動した。明るく眩しい光は所詮反射の作用でしかないが、やはりいつ見たって変わらず綺麗はこの気持ちだと感じられる。下を見れば少しずつ闇に喰われて黒に染まる世界があった。隣を見れば光を受ける黒があった。
「いつだってそう、一寸先は闇なんだ。抗うだなんて馬鹿らしい。・・・それでもやっぱり怖いから、何度だって手を伸ばすんだろうね」
届かない、
届くわけない、
気休めでも、
祈りたいのだ、
現実に・・・どうしても
「明日はシズちゃん休みだよね」
「・・・ん」
「何しよっか」
「寝る」
「夢無い。むしろポジティブに別の意味に捉えるからね、俺」
「死ね」
湿気は未だしつこいのに不思議と楽に息が出来る。こめかみの痛みは鈍く響くが遠くなった。これでもう一度眠れそうだ。
「臨也」
「なに?」
「俺は、お前に対してだけはためらわねぇから安心しろ」
ぱちぱちと瞬いた瞳には月が映り更に反射、反射、
やがて綻ぶ口にセットで合わせられたのはやや水分過多な両の目だった。お釣りはいりません。
大人しかも男二人が眠りについた寝台には月明かりは届かず、伸ばした手の中に星は入っていませんでした。けれど穏やかなその二つの寝顔は透明で、現在からはまだ逃げません。お願いごとは叶えないので、色んな面を突き合わせてとりあえずは人の中に埋まりなさい。
ゆるく繋いだ指に覚悟、
隠さない本音に許し、
臆病者二人は愛し合う
囲われた面々に
己を反射させながら・・・
六面体
(多角的ですらないこの気持ちはされど単一ではないのだ)
fin.
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eclipse様に提出させて頂きました。
意味不明な文章で本当に申し訳ありません(汗;
かなりお題の壁をブチ破ってる感いっぱいですね。
このような素敵な企画に参加出来て本当に良かったです。臨静愛!!
ありがとうございました!