遙か1
□花のちから‐天真Side‐
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寒い冬を抜けて、ようやく咲き誇った桜を眺めてた。
遅咲きの桜の名所として有名な仁和寺は、にわかに賑わいを見せている。
まるで、抑え込んでいたものを解き放つように。
ちょうど一年前、桜吹雪と共に出逢った人と、出会い結ばれ、再びやってきた桜の季節。
淡いピンクの霞が見せた夢や幻かと、いまでも思ってしまう。今の自分が信じられないぐらい、幸せで幸せでたまらない。
「今年もまた、なんと美しいことでしょう」
「ああ。去年の今頃は、それどころじゃなかった」
「それに、まだ、あなたと結ばれてはおりません、寂しい身でございましたから」
時々、風に散らされた花びらが、座敷に舞い込んでくる。
土御門で独りで見ていた桜と、今年は違う。
「・・・本当に、天真殿とお逢いできて、よかった」
永泉が、手元の湯飲みに浮かぶ花弁を見つめながら、囁く。
蘭のことや、八葉だとか神子だとか突然突きつけられて、ぐちゃぐちゃになってた俺を、優しく包んで癒してくれた。何物にも代えられない、こいつと出会えたから。
「俺も・・・」
控えめな永泉を、そっと肩を抱き寄せて、額に口付ける。
お前のためなら、元の世界なんて、執着や未練もない。
死ぬまでお前の傍に居て、お前に降り注ぐすべてから、俺が守ってやる。
お前のためなら、何でもする。何にでもなる。
俺には、お前だけだから。
‐完‐