遙か1

□あなたいろ ★
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永泉は、今朝も、夜明けと共に目が覚めた。







懸命に手を伸ばして、指一本分ほど襖を開けると、生まれたての太陽の光と清々しい空気が、部屋に差し込んでくる。

素肌に夜着を掛けただけの永泉は、ぶるっとひとつ震えると、また手を伸ばして、襖を閉じた。


隣には、同じく素肌に夜着を掛けただけの最愛の人が、心地良さそうに眠っている。
その向こうには、感情の赴くままに脱ぎ捨てた、二人分の衣が散っている。









「天真殿・・・」






少し動いたところで、目を覚ます気配すらしない。
きっと、慣れない土地での慣れない生活に、心身共に疲れているに違いない。


永泉は、痛む腰を庇いながら寝返りを打つと、物言わぬ天真に寄り添ってみた。
ただ、名前を呼ぶだけで、愛しさが胸の中に広がるのがわかる。




肩口に頭をすり寄せて、静かに目を閉じる。

「あなた様と、共にありたい」




小鳥のさえずりに掻き消されることを願って、覚醒しているときには言えないことを、溢してみる。










「私が、親王などでなければ、あなた様と、同じ世界の住人であったなら、共にあることなど、容易いのに・・・」



天真から向けられる愛情の総てに応えることの出来ない自身が、もどかしい。
そのもどかしさは、自然と涙になり、一筋、天真の肩を濡らしてしまう。
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