不思議の国はアリス

□アリスは誰のもの
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自分のことを悲劇の主人公のように思って感傷に浸る人って、あんまり好きじゃない。
不幸な目にあったことをまるで自慢でもするかのように語って、自分の不幸せに浸られても、私にとっては「だから?」と返事をしたくなるような話だ。
人の不幸がどうでもいい訳じゃない。ただ、その不幸に浸って、変な優越感を感じられるのが正直イヤなだけ。
もっと世界に目を傾けろ。もっと不幸な人なんて大勢いるぞ、と言ってしまいたい程だ。


だけど、今なら自分の不幸に浸りたい人の気持ちが分からなくもない。



「……最悪だ」
「それはこっちの台詞です」


右手に収まっている缶コーヒーと、目の前で若干頬をひくつかせている人のぐっしょりと濡れたジャケットやインナーを交互に見やって、色々な負の感情を込めた深いため息を吐いた。




八城 陽咲(やしろ ひさき)。
県内でそこそこ高い偏差値を誇る公立高校に通う女子高生。
趣味は特にないけど、あえて挙げるなら音楽観賞。
学校で勉強して、友達と下らない話で盛り上がって、塾行って、家に帰って、なんとなくテレビ見てご飯食べて、友達とメールして、お風呂入って眠る。そんな毎日を繰り返しながらの受験生。
これが私という人物を説明するのに相応しい文章。
これだけ見たら平凡な女子高生といった感じだろうか。

けど私にもほんの少し、個性というのか特徴というのか変な体質があるのだ。

私にはどうやら不幸体質というものが備わっている気がする。

不幸ではなく、不幸体質だ。

近所の小学生が悪戯していた犬に何故か私が吠えられたり、並んでた自販機の欲しかった飲み物がちょうど売り切れになったり、エレベーターがちょうど閉まってしまうのは日常茶飯事。
中学のときに好きだった人の好きな人は私の友達(しかも私がその人について相談していた)だったり。
皆やりたがらない学級委員長をくじ引きで決めたとき、トップバッターの私は36分の1の確率だったにも関わらず見事委員長になってしまったり。

そういう小さな不幸が頻繁に起きやすいことを不幸体質と私は勝手に呼んでいる。

そして困ったことに私のこの体質は人を巻き込んでしまうことがたまにあるのだ。

犬に吠えられて思わず後ずさるとちょうど駐輪場の自転車にぶつかって倒して、タイミング良く現れた人の自転車は一番下に下敷きになっていたり。


私が不幸な目にあうのは、なんていうかもう慣れてしまっているから別にいい。ただ、そのせいで他の人にも不幸なことが起こるのがちょっと申し訳ないのだ。


だから、なおせるかどうかは分からないけどこの不幸体質を治そうと自分の中で決意をした。
自分の為に、周りの為に。


けど、そんな上手くいきはしないのが私なんだろう。


「あーあ……、びしょ濡れ……」
「……スミマセン」


ジャケットとインナーを素肌につけないようにつまみ上げる被害者に私は素直に謝るしかなかった。




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