戦国うたたね
□夕立
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空が泣いている
とめどなく流れるその涙は尽きることを知らないかのようだ
「天は、何が悲しくて泣くんだろうね。」
書物に目をやっていた幸村はその問いかけに視線を上げた。
遠くで雷が鳴った。
「すぐに止まってしまうのに、また泣くなんて・・・・。」
そう話しているうちに、先ほどまであんなにも激しく降りそそいでいた雨は雨足が遠くなってゆく。
最初のころにむわりと襲ってきた土のにおいは、今では消えてしまっている。
ああ、ほら、もう今にもやんでしまいそうではないか
「茜殿、何かあったのでござるか?」
こちらに向きを変えて、心配そうに眉を寄せている幸村。
何事にも一生懸命で、手加減を知らない。
よく言えばまじめな
悪く言えば不器用な人
「なにも。」
そういっても、納得してくれず、じぃっと見つめ返される。
目は口ほどにものを言う、とはいうが、こんなにも目で訴えてくるのは幸村しかいないだろう。
「たださ・・・・」
「ただ?」
すっかりと雨の上がった庭先を見る。
そのうちに蝉などがまたうるさいほどに鳴きはじめるんだ。
「あんなふうに泣いたら、どんな気持ちがするのかなって。」
外聞もきにせずに、ほんの赤子のように、感情のままに泣くことができたら、どんな気分がするのだろうか
雨の後の空のように、すっきりとした心地がするのだろうか
天に虹がかかるように、心がなにかとつながるのだろうか
そう、ただ本当に心に浮かんだことを言ったら、まるで自分が何か辛いことがあったかのように悲しい顔をして幸村は抱きしめてきた。
「泣きたいならば、胸を貸します故・・・・。だから、」
続けられた言葉に、胸がきゅんと切なくなった。
それをごまかすために彼を抱きしめ返した。
「虹がかかったね。」
「きれいでござるな。」
心にあったもやもやは先ほどの雨と一緒に消えてしまった。
一匹の蝉が泣き始めるとそれに呼応したのか、大合唱に変わっていく。
「団子でも、たべようか。」
「うむ。」
雲の切れ間からまぶしい太陽の光が降りそそぐ。
天に大きくかかった虹を見上げ、二人で笑いあった。
だから、どうか、一人で泣かないで
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