戦国うたたね
□心妻
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心妻 ――心に妻と思い定めた女――
昌幸様がなくなられてから私は各地を旅するようになった。
旅先で見たもの、人、土地。
そう言うもの全てが灰色の中でのものでしかなかった。
世界から色が無くなってしまった。
私の立場というものもあやふやになってしまった。
遠くに上田城を見つけると、足を止める。
「……なんでここだけは色があるんだろう……。」
昌幸様が亡くなられてから、初めて上田の地へと、足を踏み入れたのだった。
「息災そうで何よりじゃ。」
「お館様もおかわりなく。」
躑躅ヶ崎館に行った時に上田に発ったと言われ、おそらくしばらくは帰らないから上田に言った方がよいと言われて今に至る。
上座にお館様が、その近くには上田の城主、幸村がいる。
別れた時はまだまだ子供だったのに、今ではもうきちんとした大人になっているようだ。
ツキリと胸が痛みを訴える。
(……昌幸様……)
そっと視線をハズし、床を見つめる。
彼らはもう前を向いている。
戦国の世であるのだから、近しいものが死ぬということは当たり前だ。
でも、未だに茜は立ち止まったままだ。
「…茜?聞いておったか?」
「っ!?も、申し訳ございません!」
考えにふけり、信玄の話をきいていなかったとは、なんてことをしてしまったのだろうかと、茜は平伏した。
「よい。今な、幸村がこの城に泊まってゆけと言ったんじゃ。」
そう言う信玄の顔は、なんだかとてもうれしそうで、それを断ることなんてできなかった。
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