戦国うたたね

□この道
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「……茜。」

図書館でいつものように勉強をしていると声をかけられた。
顔をあげれば、同級生の幸村がいた。
少しいいか、と言われたので、ちょうどきりもよかったことと、そろそろ閉館時刻でもあるということで、荷物を片付けて立ち上がった。


図書館を出たら、すでにあたりは真っ暗でなんとなく寂しさを感じさせた。
一番寒いこの季節、風邪をひかぬようにとマフラーをしっかりと巻き付け、手袋をつける。
幸村はこっちをむいたまま、何かをいいたそうにしていた。

だが、こちらも自分のことでいっぱいいっぱいなので、それを助けてやろうとは思わなかった。

「東京に行くというのは本当か?」

やっとしぼりだすようにいった幸村は、どこかしょんぼりとしていた。
答えなんて聞かなくても知っているだろうに。

「本当だよ。」

それに間髪入れずに答えると、幸村は顔を歪めた。

「なにゆえ、でござるか?」

なぜ、と聞かれた意味がわからなくて、幸村を見上げる。

「ここが田舎だからでござるか?嫌いなのか?」

たしかに、東京と比べたらどこもかしこも田舎になってしまう。

ここは普通だと思う。
田舎でもなんでもない。
ただ、あの場所が異様なのだ。
全てが全て、あんなビルだらけの場所ではないのだが、その事実を日本人の全てが知っているわけではない。


人々が魅了される東京は、高層ビルが立ち並び、異様なまでに人でごった返しになった魔の都市だから。


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