戦国

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パカ、パカと馬を操っているのは紅蓮の鬼と名高い真田幸村。
彼は今、国境付近に共も付けずにやってきている。
もちろん忍にも内緒で、だ。


林道近くのこの場所で、なにやら不穏な空気を感じたのか、ふとそちらへ視線を向ける。


ザッ


「わっ!!」
「!?」

突然目の前に人が飛び出して来た。
ベシャッと盛大な音をたててその者は地面に転ぶ。
ボロボロの服に全身が泥だらけのその者は大事そうに何かを抱えている。

顔を上げ、後ろを振り返りながらまた駆け出そうとした。

「お、女子!?」

横顔をみて、驚きに声を出してしまうと、少女の肩がビクリとゆれ、そして幸村を見ると恐怖に眼を見開いた。


その尋常でない様子に幸村自身もどうしていいかわからなくなる。

身体を震わせながら、足を引きずるようにして後ろに一歩下がった。


「ど、どうかなさったのか?」

ボロボロとはいえ、袴をつけ立派な布に包まれた物を持っているからそれなりの家の者だろうと判断した。
もちろん農民などの貧しい者が繕うような独特の雰囲気もないからなのだが。


だが、声をかけても少女は幸村から眼を離さず、また一歩下がった。
常軌を逸した怯えようは、何かが起こったとしかいいようがない。

と、その時地面に何本かのクナイが刺さる。
それを合図にしたかのように何人もの忍が飛び出してきた。
少女は反射的に逃げようと足を踏み出したが、一瞬困惑したような表情を幸村に向ける。


その表情に目を奪われたほんの一瞬の出来事だった。


「なっ!?」


馬がいななき、走り出す。

(一体なにが!?)


そう思い後ろを振り返ると先程の少女は自分と反対方向に逃げていて、そのあとを数人の忍が追っている。


理由はわからないが、あの少女は忍に追われているということだけはわかった。
あの必死な目を何故かほうっておけなかった。


それはほぼ反射的なものだ。


気がつけば手綱を引き方向転換をしていた。




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