戦国
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「あの、お世話になりました。」
「いいえ。」
頭を深く下げる。
何も出せない自分。
と、後ろから昨日の青年がやってきた。
「住職殿、某もこれにて。」
「あなたもお気をつけて」
そういえば、まだ上田の方向を聞いてない!!
もういいか、勘でいこう。
途方もない決意を抱いて寺の門を潜った時だった。
「お、お待ち下され!!」
焦った声と共に、馬の蹄の音。
振り返るとあの青年が馬に乗ってやってくる。
ビクリと身体がはねた。
そして身を翻すようにして逃げたのはほとんど反射だといっていい。
追ってくる気配がしたら逃げるということがこの世界に来てから身体に染み付いてしまったらしい。
事実、それによって何度も命拾いした。
気がついたら近くの林に飛び込んでいて、荒れた呼吸から相当の距離を走ったことを知る。
薄暗い林
静寂に包まれた空間
この場所に入ったのは自分だ。
それなのに
刺すように鋭い殺気。
ドクンと、心臓の音が一段と大きくなった。
全身が強張る。
(だめだ、動け、動け!)
必死の思いで足を動かすと先程自分の足があった場所にはクナイが見事に刺さっている。
やっぱりさっきの人は敵、だったのか!?
そんな思いが一瞬浮かんでは消えた。
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