戦国

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今大事な事はあの人が敵なのかということではなく、いかにして生き延びるか、なのだ。

包みを抱えて走り出す。
しばらくも走らないうちに躓き、盛大に転びながら林道に出た。

ヒヒィン

突然の出現に馬が驚いたのだろう、大きくいななき、後ろ立ちになる。
馬の声に先程の青年のことが脳裏をかすめ、体中に恐怖が走った。

足を酷くくじいたのか、立ち上がりざまに駆け出そうとしてもんどりうった。

「君は……」

馬上の人間が何かを言っているのだが、言葉が耳に入ってこない。



噛み合わさらない歯の根。
止められない震え。
無意識のうちに溢れ出す涙。


今まで何度も危うい所を生き延びてきた。
けれども、今回ほど死の恐怖を感じたことはない。

それでも包みを握る手から力が抜けることはなかった。
馬上の人間が馬からおり、側までくると膝をおって目線を合わせてきた。


(さっきの人じゃない……?)

じっと見てくるその顔を見返しながらぼんやりとそんなことを思った。

「神谷之孝殿が娘の朔殿とお見受けします。」

青年、というよりは大人の男性に近い人がそう言葉を紡いだ。
その内容を理解すると同時に、全身の血がさがった音を聞いた。

その様子をみて男はしばらく目をしばたかせた。
それから何かに気付いたのか、ふわりと笑みを浮かべた。

「申し遅れましたが、真田昌幸が嫡男、真田源三郎信幸と言います。」


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