戦国
□6
1ページ/2ページ
恐怖に見開いた目。
全身を震わせ、それでもしっかりと前だけをみていた少女。
(名を聞くのを忘れてしまったな。)
前を行く兄、信幸が乗る馬を見て幸村はそう思った。
寺を出る時に声をかけたら急に少女は走り出した。
(何にそんなにも怯えているというのだろうか)
とめどない考えばかりが脳裏に浮かんでは消える。
自分をみて怖がっているようではなかった。
初めて会った時から思ったのは、中々に警戒心が強いということ。
ただ、林の中に走り込んだ彼女を馬で追うこともできず、自身も馬から降りて探した。
(妖しの類…か?)
佐助が攻撃をした際見られた青い炎。
それは今まで見たことがないもの。
それでも幸村には妖怪といった類ではなく、なにか神聖なものに思えた。
チラリと前方をもう一度見る。
兄と乗っているであろう少女。
何故兄は平気だったのか。
自分は兄と何が違うというのだろうか。
なんとも形容のしがたい気持ちが胸中に渦巻く。
.