戦国うたたね

□過去拍手夢
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あまりに綺麗だった。
おもわずその手を掴んだのは、ほとんど反射だった。


そなたは驚いた顔をして某の方をみた。
黒曜石の双眸がじっと見つめてくる。
あまりの美しさに言葉を盗まれた。


どれほどの時間を見つめ合っていたのだろうか。
ほんのわずかの時だったのかもしれないし、またかなりの時間だったのかもしれない。
長い長いぬばたまの髪が、さわりと風で揺れた。


「幸村…様……」


戸惑いがちに発された声のなんと愛らしいこと。


気がついたら某は、両の腕の中にそなたを閉じ込めてしまっていたのだ。
するとそなたはまた小さな声で、恥ずかしゅうございます、と言ったのだ。


顔をのぞきこんでみれば、白い肌がほんのりと朱に染まっている。
羞恥のために伏せられた目は、当然なのだけれども某のことをみていない。
なぜその目に某のことを写してはくれぬのか、と不満に思う。


髪を一房指にからめとり、もてあそんでいるとそなたは困ったように見上げてきた。


ようやく某のことを写したことに深い満足を覚える。
髪な優しく口付けをおとすと、たちまちのうちに赤くなってうつむいてしまった。


某から目をそらすなど、許すとでも思うたのか。




顎に手をかけてこちらをむかせ、その額に口付けを落とす。


「幸村…様…」
「某から目をそらすな。」


未だに頬を赤くしたままの某の天女は、潤んだ瞳で某を誘う。


「幸村様、恥ずかしゅうございまする。」


瞼に、そして熱をもった頬にとゆっくり口付けていく。
きゅっと衣を握ってくるそなたは、某の理性を壊そうとでもしているのか。


「そなたが悪いのだ。」


耳元で囁けば、ビクリと肩がはねる。
鼻孔に広がる香りは思考を支配していく。


「私は、何も…」
「そなたが美しすぎるのがいけぬのだ。愛しすぎるのがいけぬのだ。」


困惑しているように見つめてくる目には、優しく、だが不敵に笑った俺の顔がしっかりと写っている。
そう、俺以外の何者も写ってはいない。
何かが頭の中で弾けたような気がした。


幸村様、と言いかけたその口を俺は塞いだ。
苦しそうに、けれども、健気にも俺を受け入れてくれたそなたに、勢いが止まらなくなる。
腰帯に手をかけるとそっと囁いた。



「愛しておるぞ。そなただけをずっと。」




二度離しはせぬ。
そなたは俺だけの天女なのだから。




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