戦国うたたね

□過去拍手夢
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空は澄み切っていた。
風が穏やかな晴天は、絶好の航海日和だった。


「元親、船乗せて。」
「あぁ!?なんでだよ。」

やってきたのは、幼馴染みといってもいい茜。
小さい頃から一緒にいた仲だ。


「天気がいいから。」
「あのなぁ、船乗りには」
「わかった。じゃあ、いい。」


いつもはもっと乗せろ、とうるさいぐらいなのに今日はあっさりとあきらめた。
船乗りというのは迷信深い。
俺がなんと言っても、野郎共は納得しない。
来た道を引き返していく茜の後を追う。
波の音が遠くで聞こえた。


「おい、茜。」
「……。」


話し掛けても無言で前を歩いていく。


「茜。」


苛立って声をかけると茜は立ち止まった。


「元親、お願いがあるの。」


こっちを向くことなくいった茜に俺は苛立ちを覚えた。


「こっち向けよ。」
「お願い、きいてくれる?」
「だから、こっち向けって!!」


乱暴に肩を掴んだのはいいが、その細さにびっくりした。
こんなに細かったのだろうか……。


小さい頃はいつも茜の後ろをついていってた。
その背中が頼りにみえたのも事実。
茜が引きこもりがちな俺に、海の青さをみせてくれた。
いつも、彼女の目は自信に満ちていた。


こわいと思った


パッと振り返った茜は、やっぱり強い眼差しで俺を捕らえる。


「で、願いってぇのはなんだ?」
「私が死んだらさ…」


言い出したことにぎょっとした。
何かを言おうとしたら、茜が俺のことをにらんだ。
昔からこの目に逆らえたことがない。


「死んだら、海に流して。」
「茜……?」


なにを、といいかけてやめた。
茜が、寂しそうに笑っていた。


「海だったら、元親と一緒にいられるでしょ?」
「……ああ。」


抱きしめた。
今にも折れてしまいそうな体。


出会ってから何年もたった。

時のながれは無情で、幼子達は男と女になった。
そしてその間には、決して越えることのかなわない、身分という壁。



「茜、俺ぁ、海賊だ。」


四国は既に統一した。
政だって嫌いじゃねぇ。
俺から距離をとった茜は、そうだね、といった。


「海賊は、自分の気に入ったものは奪う。」
「うん。」


好きな女一人も手に入らないなら、俺は城主よりも海賊の頭をとる。


「私、一番じゃないの嫌だから、きっと逃げるわよ。」


不敵に笑った彼女は、やっぱり小さい頃からよく知る茜だった。


「逃げたら捕まえる。覚悟しとけ。」



宝を奪うのが、海賊ってもんよ。






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