戦国

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「まいった。」

眉をハの字にして幸村がいった。
その声を合図にお互いが武器をおろす。

「やはり、強いでござるな。」
「そんなことないよ。」
「某も、まだまだ精進せねばな。」

精進しなければいけないのは自分のほうだ。

「私も……。」

己の感情をコントロールできるようにならなければならない。

見上げた空はすんでいて、空には鳥がまっていた。
幸村のほうを見て、自分の弱さを隠すように笑みをつくった。


「私も、もっともっと、強くならなくちゃ。」

何かを言おうと幸村が口を開いたとき、スタリとその背後に影が降り立った。

「おぉ、佐助。」

柄を持つ手から力を抜いた。

「旦那…。」
「じゃあ、私は先に部屋に戻ってるね。」

佐助の目がこちらに向いたのをみて、退席したほうがいいことを理解した朔は踵を返して部屋へと行った。


普段、自分に気を使ってなるべく気配を殺さないで近づいてくれているから平気だが、やはりこうしていきなり現れると構えてしまう。

(佐助さんだって「忍」だもんね…。)

部屋まで戻ると、そのまま簀の子に腰をかけた。
朔はしばらくの間、手の平をじっと見ていた。

(…楽しかったな。)

ぎゅっと手を握り、力無く開いた。
ため息と共に空を見上げる。
祖父以外の誰かと稽古なんてしたことがなかった。
だからなのかよくわからないけれども、すごく楽しいと感じたのだ。

死合ではなく、純粋に相手との技術を競う。
自分は、戦うことが嫌いだと思っていた。
人と競いあうことだって嫌いだと思っていた。
でも、今日幸村とやりあって、気付いた。

誰かと競うことは、悪いことではないのだと。

相手がどうでるのか、自分がこうやったら相手がどうくるのか…

胸が躍った。


ばっと立ち上がり、左を見る。
と、幸村がやってきた。

「着替えねば風邪をひいてしまうでござるよ。」

にこりと笑った幸村の顔を見て、体から力が抜けた。

「うん、ありがとう。」

座った幸村の隣に腰をおろす。

「今日は、楽しかったでござる。また、お相手願えないだろうか。」

穏やかな表情の幸村。
朔は自分の心がほこりと温かくなるのを感じた。


「ぜひ!次も負けないからね。」
「む、某とて、次は負けぬ。」

お互いの顔を見て、同時に笑い出す。


そんな、穏やかな日の出来事だった。

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