戦国
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朝起きたら、おはよう、と言われる。
天気だったら、よく晴れましたね、と言われて、
夜には、おやすみなさいませ、と言われる。
ここ、上田の人達はとても親切だし、よくしてくれている。
城主の真田幸村は、なにかと話しかけてくれるし、稽古にも誘ってくれる。
仕事がないと居づらいといった自分のために、兵士の稽古係を任せてくれた。
「では、今日の稽古はここまで。」
終了を告げれば、口々に礼をいい、頭を下げて兵士たちは去っていく。
午前と午後、かなりの兵士たちを教えているというのに、朔には疲労の色が見えない。
持っていた木刀を足に立てかけるようにして、縁側に腰掛ける。
日はすでに傾き、空が茜色に染まっている。
みんな、優しくしてくれる。
不足しているものなんてないぐらいに。
それでも、それでも朔は思ってしまう。
(どうして心がこんなに晴れないんだろうか)
その答えははっきりとわかっている。
どうすればいいのかがわからない。
無性にさびしくなるのは、元の世界に戻れないからでも、全く知らない世界にいるからでもない。
(なんで、どうして・・・・・・)
上田に着くまではこんなことを考えている余裕がなかった。
いかに生き延びて上田に着くか、そのことだけを考えるしかなかった。
元の世界だって、決して平和だったわけではない。
女の一人旅は、やはり危険なものであった。
けれども、忍に襲われるなんてことはなかったし、交通機関も、宿泊施設も、もっとしっかりと整っていた。
大阪から長野に行くのに、徒歩で山越えをしよう、なんて愚かな考えを持つものはいないだろう。
丸裸同然の状態で命を狙われるのと、住むべきところがあって命を狙われるのとでは、精神的な圧迫感が違う。
なによりも、彼女が命を狙われるきっかけとなった人物、その者のことが頭から離れないのだ。
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